NQC 2020年度実施報告

体験型プログラム実施レポート

NQCでは、量子ICT人材育成のため、量子ICTに関する講義やワークショップを提供しています。今年度のNQCには10代〜50代の日本全国の方から応募があり、選考の結果、北は北海道、南は高知までの社会人や学生さん、30名が参加されました。量子に関する研究に取り組んでいる学生さんから、量子に関心はあるが勉強知識はまだという方まで、さまざまな人たちが集まり、量子ICTについて学び、体験しました。今年度は社会状況も踏まえ、量子ICTの第一線で活躍される方々を講師にお招きしてのオンラインプログラムを以下の内容で実施しました。

(表:講義一覧)
実施タイトル 講師
1 量子ICTの基礎知識 井元 信之(東大)
2 量子コンピュータ 小野寺 民也(IBM)
3 量子通信・量子暗号の概要 佐々木 雅英(NICT)
4 量子技術の応用 楊 天任(QunaSys)
5 量子コンピュータの基礎・構成 伊藤 公平(慶應大)
6 量子コンピュータと暗号技術 國廣 昇(筑波大)
篠原 直行、青野 良範、高安 敦(NICT)
7 量子情報通信と量子暗号 武岡 正裕(NICT)
豊嶋 守生(NICT)
8 「量子コンピュータ」
「量子通信」の次に来る、「量子中継ネットワーク」
小坂 英男(横国大)
9 補講: 量子誤り訂正 井元 信之(東大)
10 量子計測・標準 早坂 和弘(NICT)
井戸 哲也(NICT)
寺井 弘高(NICT)
11 QisKit ワークショップ 小林 有里(IBM)
沼田 祈史(IBM)

講義について

これらの講義では、量子ICTの専門家から直接講義を受けるだけでなく、質問や議論を通じた双方向でのやりとりもありました。「量子」と一言で言っても、物性や材料といった物理から、量子情報処理のような情報科学まで、その分野は多岐にわたります。ときには、講師の先生も唸るほどの質問も飛び交い、量子ICTに関する最先端を学び合う雰囲気あふれる大変興味深い時間を過ごすことができました。

講義の内容は多岐に渡り、いろいろと量子についての前提知識も異なる受講生たちにとっては、すべてを完全に理解するというよりは、知らないことを知る機会にしたり、講義ビデオや資料の見返しや、お薦めの本などを読み始めたりと、各自の目標や理解に応じた形で、この講義を活用していたようでした。

講義の開始前や合間では、講師や受講生たちでの自己紹介や雑談の時間や、講師の先生を囲んでの対話など、量子に関心がある仲間での人的ネットワークづくりの機会も持ちました。オンラインで初対面での会話は、最初はやや不慣れな感じもあったものの、多くの仲間との交流につながり、講師を囲む際にも量子の話やキャリア相談など、NQCならではの会話が弾みました。

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ワークショップについて

体験型プログラムの中では、IBMの協力により、IBM Qiskitを使ったワークショップも実施しました。Qiskitはオープンソースの量子プログラミングフレームワークです。Qiskit CommunityやIBM Quantum Challenge(IBM主催のQiskitハッカソン)の運営に関わる、小林さん、沼田さんを講師にお招きしました。

受講生たちは、ワークショップ内ではQiskitを用いて、これまで勉強してきた量子アルゴリズムを実装して実験してみたり、実際の量子コンピュータQを利用してみたり、IBM Quantum Challengeの過去問題にチャレンジしてみたりなど、大変実践的な内容を体験しました。Qiskitは初めてという方から、IBM Quantum Challenge参加経験者まで、さまざまな受講生がいました。そこで、経験者にはアシスタントになってもらい、受講生間でも教えあいながらの実施となりました。

Qiskitに触れて、その利用を体験したことは受講生にとって今後のチャレンジへのステップとなったのではないかと思います。

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探索型/課題解決型プログラム実施レポート

NQCでは、量子ICTの研究開発力を持つ人材の育成のため、量子ICTについての研究開発などの活動テーマを持つ人やグループの活動を支援するプログラムを提供しています。
2020年度は以下の内容が採択されて、研究開発の活動に取り組みました。

研究タイトル 研究者
1 「複数量子回路並列実行によるNISQデバイス利用の効率化」 大倉康寛 B4, 佐藤綾祐 B4, 長岡 拓磨 B2 慶應義塾大学 環境情報学部
2 「強化学習を用いたt-design識別のための量子回路最適化」 藤井真博 M1 静岡大学 総合科学技術研究科 情報学専攻

それぞれ、専門的な内容に対して取り組む研究開発を実践しました。毎月、活動内容も報告をしてもらい、講師たちからのフィードバックも活かして活動を続けました。活動の途中では、中間発表会も実施して、活動内容について講師や他の受講生たちにも発表を実施しました。受講生にとっても、量子に関する専門的な取り組みについてのミニ講義のような発表を聴講して、その後の質疑でも活発な議論へとつながりました。

最終発表会の開催

2020年度 NQCプログラムの成果発表の場として、オンライン公開形式の最終発表会を開催しました。体験型人材育成プログラムと合同として、体験型人材育成プログラムの受講生代表から、プログラムの感想や今後のキャリアへの意気込みや、探索型/課題解決型プログラムの研究開発の成果発表を実施しました。

2020年度 量子ネイティブ人材育成プログラム「NICT Quantum Camp」最終発表会開催のご案内

量子ICTに関心がある人材の集まる場ということで、招待講演には株式会社メルカリ R4D シニアリサーチャー 永山 翔太 氏に登壇いただき、量子ICTの産業応用と将来、量子ICT人材への期待について講演いただきました。また、内閣府ムーンショット型研究開発、文部科学省 Q-Leap、総務省 異能vation、IPA 未踏ターゲット事業、量子ICTフォーラム、日本IBM 量子インターンなど、受講生たちのような量子ICT人材の今後のチャレンジになるようなプロジェクトからも活動のご紹介いただきました。受講生たちや量子ICT領域のそれぞれにとって、よい出会いとなったのではないかと思います。

このように、量子ICTに関心がある方から、研究開発に取り組む方まで、さまざまな受講生が参加する2020年度のNQCプログラムでした。受講生に共通するのは、量子ICTへの関心です。知識量を競うものではなく、受講生は各自の興味や目標に基づいて、知識や体験を得たり、国内の量子ICT研究開発人材とのつながり作りなどにつながったのではないでしょうか。NQCで得たものを、これから先の量子ICTへの関わりの礎として、将来の活躍につなげてもらえることを期待します。