業界一流の講師陣と活発な受講者コミュニティが「人生を変える」。2022年度「量子ICT人材育成プログラム」振り返り座談会
レポート
活動報告
前列左の2番目からが今回の座談会参加者である松田公慶さん、曽原愛未さん、髙橋太平さん、川戸良昭さん。残りはNQC運営メンバーたち
国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)が2020年度から実施している「量子ICT人材育成プログラム(NQC)」。同プログラムは、最新技術であるがゆえにまだまだ人材豊富とは言えない量子計算や量子通信に代表される「量子ICT」の知見を持つ研究者・エンジニアを増やしていくために企画されたもので、2022年度が3回目の開催となる。
初期は手探りの開催だったが、回を重ねるごとに受講生たちのコミュニティ活動が活発化し、修了生が「サポーター」として独自の勉強会、見学会を実施するなど盛り上がりをみせている。
今回の座談会では、NICT企画担当者、プログラム参加者、そしてサポーターが集い、NQCでどんな活動が行われているのか、参加してどんなメリットがあったかを語り合った。
(聞き手・文・構成:神保勇揮(FINDERS編集部) 写真:赤井大祐(FINDERS編集部)・神保勇揮)
<プロフィール>
横山輝明
国立研究開発法人情報通信研究機構 量子ICT協創センター 主任研究員
村上友章
株式会社ギブリー HRTech部門
松田公慶
筑波大学 理工学群 物理学類 2年
合同会社タテXヨコ 代表社員
髙橋太平
慶應義塾大学 山本直樹研究室
川戸良昭
会社員
曽原愛未
広島大学 総合科学部 総合科学(物性科学) 2年
NQCに応募した理由
村上:皆さんそれぞれ自己紹介と参加のきっかけをお願いします。2022年度の受講者は曽原さんで、他の皆さんは別の年度に受講し現在はサポーターとして関わってもらっています。
髙橋:髙橋太平です。慶應義塾大学の山本直樹研究室に博士課程で所属していて、今は特に量子機械学習の超越性、古典よりも優れているということを示したいと思い研究をしています。
参加したきっかけは教授から「こんな募集があるよ」と教えてもらったことだったのですが、当時は研究者を目指すか就職するか悩んでいたこともあり、量子技術が社会からどう期待されているのか、社会人の皆さんはどう捉えているのかを知りたくて応募しました。
川戸:川戸良昭です。企業に勤めるエンジニアで、機械製品の中で使うセンサーやデバイスの開発をしています。
参加したきっかけは、量子情報に関する勉強会でこのプログラムの存在を知り、非常に魅力的だと感じたからです。そもそも量子分野に興味を持ったのは、やはりGoogleの2019年の発表(量子超越性の実証)に触発されたということが一つ大きいです。その後、IBM主催のQuantum Challengeにも毎回参加してバッジを取得するといった活動に個人で取り組んでいました。ただ、私自身はデバイスエンジニアなので、大規模な量子アルゴリズムを開発する方向へ向かうには限界を感じていたのです。
そんな折に出会ったNQCのプログラムでは、ハードウェアの話もかなり充実していることに魅力を感じ、思い切って応募しました。
曽原:曽原愛未です。広島大学 総合科学部 総合科学科(物性科学)の2年生です。この学部は文理どちらからも入学できて、2年生から何を専攻するかを選択します。私は精神疾患に関して何か役に立つことを研究したいというモチベーションがあり、色々と調べていたところ脳の情報伝達の話を知り、かつたまたま今、進んでいる物性科学という分野で量子関連の研究をしている先生と話をする機会がありました。そこで「量子脳」というものがあることを教えてもらい、さらに興味を持ちました。
NQCの存在は大学のウェブ掲示板で知ったものの、量子どころか物理や数学の知識も乏しい状態だったので「私のようなレベルでも参加して大丈夫でしょうか?」という問い合わせのメールを送ったのが最初です。
横山:NICTとしても応募してくれて非常にありがたかったんですが、ちなみに曽原さんは今後の進路のことも考えていますか?疾患というテーマだと、臨床に行く人と研究に行く人とで分かれるよね。
曽原:今のところは研究側に興味があります。量子系の領域と別の領域をつなげられるような立場になれたらいいなという感じです。
松田:松田公慶です。受講時はまだ高校生だったんですが、今年で筑波大学 理工学群 物理学類の2年生になりました。
筑波大学には「国際科学オリンピック特別入試」という制度があり(他にもいくつかの大学で実施されています)、僕の場合は高校1年生の時に国際物理オリンピックで「第2チャレンジ(全応募者の中から約100名が選抜)」に選ばれ、その成績で大学合格が決まり、卒業までの時間が自由に使えたというちょっと特殊な状況だったこともありました。
量子に興味を持ったきっかけは中学時代から「もしできるなら、いつか世界の全部をシミュレーションしたい」と思っていたんです。それを追求していくと量子コンピュータが必要になるということを知ったものの、自分がどうすればそれに関われるのか、夢を実現できるのかがわからない。なので、量子と名のつく催しに片っ端からコンタクトを取っていました。そうした中でNQCの存在を知り、応募に至りました。
村上:松田くんは今年度、サポーターとして運営に協力してくれたけど、実は2回目の受講も応募していたよね。それは何故だったの?
松田:毎年違った新しいことをやってくれるはずだと思っていたのと、受講当時は知識が足りなくて理解しきれない部分があったので、NQCで1年間勉強して色々わかってきた中でもう1回受け直したいと思ったんですよ。
村上:素晴らしいです(笑)。
横山:ありがとう(笑)。
初学者も社会人も研究者もそれぞれ楽しめる講義の魅力
村上:NQCでの講義の印象について聞きたいんですが、特に曽原さんはまだバックボーンとしての専門性がない中で、量子という何段階か上のステップの学習をすることになったわけで、1年間かけて追い着けたのかどうか、追い着くために何をしたのかという辺りはいかがでしょうか?
それはこの記事を読んでいる未来の受講者の中にも、かつての曽原さんのように「まだ量子に関して軽い興味関心しかないけれど、自分も参加していいんだろうか」と不安に思う人へのアドバイスにもなると思うので。
曽原:最初はもちろん戸惑いましたし、数式などは未だにわからないことが多いのも事実ですが、一方でQiskitを用いて自分の手を動かすような回は周りの方にも色々手伝ってもらい、具体的に形にできたのは嬉しかったです。
あとは株式会社QunaSys CEOの楊天任さんが講師の「量子技術の社会実装」回でおっしゃっていた、「電気は当初明かりとして開発されたものの、今では様々な用途で使われているように、量子技術もいずれ多くの分野で用いられるようになるはずだ」という話がすごく印象的でした。
横山:あのたとえ話は確かに良かったですね。僕も時々マネしています(笑)。
村上:講義でわからないことがあった時はどうしていましたか?
曽原:髙橋さんが講義と別に開催してくれた勉強会もすごく助かりましたし、あとはYouTubeでわかりやすく知識を解説してくれる動画がいろいろあるので、それで勉強することも結構多かったです。個人的にはヨビノリ(予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」)がオススメですね。量子力学を解説した回もあったりするので。
川戸:ヨビノリは確かに良いですね。私も会社の若いエンジニアに勧めています。
横山:ヨビノリの名前は他でも耳にしていて、こういう人がいるのかと驚きました。僕ら教員は何をやっていたんだとショックを受けるぐらい説明もうまい。ちょっとコンタクトを取ってみたいです(笑)。
あとはさっき量子脳というワードがあったけど、この概念については懐疑的な見方をしている研究者も少なからずいます。とはいえ曽原さんは受講者同士の研究内容プレゼン回でその議論も十分に踏まえていると感じましたし、そもそも難しい、新しいことにチャレンジする人がいないと物事が発展していかないというところもある。量子分野にはそういうところがたくさんあって、うまくいくかどうか分からないところに身を投じていくことに使命感を持っている方も多いですね。
村上:髙橋くんはどうだった?
髙橋:僕も曽原さんと同じでQunaSysの楊さんの回が印象的でした。僕の場合は最新の知見を得たいというのもありましたが、それ以上に「社会の人たちが量子についてどう捉えているのか」を知りたかったので、この回はまさにディスカッション形式でその話が聞けたので勉強になりました。
具体的には「量子について知っている人をもっと増やさないといけない」という認識の方が多かったのが印象的でした。スペシャリストだけが知っていてもダメなんだと。ITもまさにそうですよね。知っている人を増やさないと「これに使えるかもしれない」という応用が出てこない。
川戸:私は横浜国立大学の小坂英男先生が担当された「「量子コンピュータ」「量子通信」の次に来る、「量子中継ネットワーク」」の回が一番印象的でした。量子通信とか量子暗号を用いた大きな仕組みをつくる、というプロジェクトが既に動き出していることは不勉強で知りませんでしたので、そういう世界を初めて知ったことが強く印象に残っています。
あと、小坂先生も、それから全体の振り返り回の時におられた北海道大学の富田章久先生もそうでしたが、量子コンピュータの研究者には民間企業出身の方が多くいらっしゃることを知りました。私も1990年代にはやはり企業の研究所に勤務していました。当時、他社の研究所で量子に関わる研究成果を出している話を聞いて、他所ではこういうこともテーマにできるんだと羨ましく感じていたことを思い出しました。
村上:企業所属の研究者としての見え方ですね。
川戸:そうですね。ただ、小坂先生も富田先生もその後はアカデミズムの世界に行かれたという共通点があり、小坂先生との質疑応答では「企業の先端的な研究が続かないのはなぜでしょう」という質問をしました。
横山:当日もそうでしたが、誰もがすぐには答えられない難しい質問ですよね。特に日本企業は懐事情が昔ほど潤っているわけではないというところもあり、一方で大学や公立の研究機関における基礎研究のような、すぐにはお金にならない分野の研究ができる余地をどれだけ残せるかという話もあります。上手くいくかどうかわからない博打を打つことになっても、上手くいった場合の成果はきちんと答えられなきゃいけない。
あとは量子分野についてはもっと具体的にいろいろなことがわかった段階から勉強を始めても問題ないはずなのに、皆さんのように現時点で飛び込んでくれる人たちがいる。量子分野で食えるようになるか否かだけじゃなくて、その知識を知ったことを別の分野でもプラスにするにはどうすれば良いのか考えていきたいと思っています。
NQCの参加メリットをさらに高める「受講者コミュニティ」
村上:ちょっと話が脱線しちゃいますが、髙橋さんは普段、量子分野の勉強をするときは一人で勉強しているんですか。それとも、研究室とか学外に友人ネットワークがあったりするんですか?
髙橋:僕は研究室の定例会に所属して、多くの研究者の方々と一緒に勉強や研究をしています。研究者同士で論文を紹介し合ったり、意見交換し合ったりして、お互いに刺激しあいながら研究を進めています。
あとはNQCの社会人受講者で金融系の人が多かったこともあって、量子金融の勉強会に参加できたのは良かったです。金融の世界には大量の規制があるので、それを踏まえた予測や計算が必要になるということで量子の出番がありそうだと研究している会社もあると知り、興味を抱きました。
横山:サポーターのみんなはボランティアでNQCの運営を手伝ってもらったり自主勉強会を開いているけど、ある種の参加メリットとして、自分の興味関心に基づく勉強会を開いてもらったり、一人だけだと行けないような場所の見学会を開いてもらえると、こちらとしても非常にありがたいし上手く使ってもらえると嬉しいですね。
他にもNQCのコミュニティに参加して何か良かったことがあったという人がいれば教えてほしいのですが、どうでしょうか?
髙橋:NICTで量子のリサーチアシスタントを募集していることを知れたのも良かったですし、狭い業界なのでインターンや学会などでも顔を合わせる機会が多くて楽しいというのもありますね。NQCではアカデミア外の人とも知り合えますし。
松田:僕は受講者だった高校時代にQunaSysの楊さんの講義を受けて「あなたの会社でインターンをやりたいんです」とお願いしました。事前に応募条件を読んだところ条件に大学院在学以上と書かれていたんですが、講義の中でも「インターンをやった方がいい」という話をされていたのでダメもとでお願いして。
僕の場合、量子コンピュータに関わることなら本当にどんなことでもやってみたいと思っていて、でも何をどうすれば関われるのかが全然わかりませんでした。それをそのまま話したところ「専門性の高いことは任せられないけれど、こういうことだったらやらせてあげられるよ」と言ってくれて。結果的に半年ぐらい、リモートだったのでオフィスには行っていませんが、公式サイトの英訳などをやらせてくれて本当にありがたかったです。
あとは量子分野について話せる人というのは世間一般にはまだまだ少ないんですけれど、歳が離れていても同じ興味関心でつながっていて、いろいろなことを聞ける知人友人が増えてすごく楽しかったということもありました。
村上:松田くんの場合は基本的に相手が年上になると思うんだけど、その辺りは気にならなかった?
松田:まずもってフランクに話してくださる方が多くてありがたかったですし、僕個人としても歳が離れている人と話すのが面白いと感じるタイプなので楽しめました。
横山:コミュニティ運営に関しては僕も結構悩んでいることがあって、グループワークをする時も参加者のバックグラウンドがそれぞれ別であった方が刺激を受けて良いのか、あるいは運営者の鬱陶しいおせっかいでしかないのか、その辺りはどう思いますか?
松田:自分と合う人かどうかは実際に話してみないとわからないと思うので、カジュアルに短い時間で多くの人と話す機会があると良いかもしれませんね。
横山:今、その辺りは僕ら運営側が「この2人は合うんじゃないかな」と思ってマッチングさせるようにしているんですが、もう少し気軽なシステマチックなものにできないかとも考えています。この指止まれ方式というか「この活動に興味ある人!」というトピックを立てて5人集まれば自動的に成立する、一定期間に集まらなければ自然消滅するぐらいの感じで。
具体的には「研究テーマに悩んでいる学生集まれ」とか「社会人と量子分野の関係についてざっくり話そう」とか。修了生の名簿も少しずつ貯まってきているので、それを活かして受講してくれるみんなにもっとメリットを感じてもらえるようなコミュニティにしたいんです。
曽原:ただ、専門知識やバックグラウンドがない私のような側からすると、少人数の集まりになる場合、おみやげ的に話せるネタがあまりないのでちょっと参加を躊躇してしまうところもあります。
横山:なるほど。確かにその問題はありますね。
髙橋:ただ僕の場合は「こういう課題があるんだけど、量子で解けないかな?」というテーマを聞きたいと思っているのですが、どの分野でもすごい研究者がたくさんいてどんどん活動を進めているので、誰も見つけていない課題を探さなくちゃいけないんです。そういう意味では専門じゃない人の意見もたくさん聞きたいんです。
横山:それも確かに。切り口次第でより多くの人を巻き込めるような活動は全然できるかも。
松田:実際、受講者同士でも一回も話せなかった人が結構いるんですよ。全体の振り返り回でも発表者の人数は限定されていましたし。例えばこういう座談会も今後はZoomやYouTubeなどで配信して、インタラクティブにやり取りできると嬉しいです。
加えて筑波大学の助教で山本亨輔さんという方から以前、「自分のキャリア形成やブランディングの意味でも、こうした情報発信をしてネットに残し、知ってくれる人を増やすことはすごく重要だ」とおっしゃっていたことが今でも印象に残っていて、それをやりたいという気持ちもあります。
横山:なるほど。僕ら運営側はどうしても慎重に物事を運んでしまう部分があるんだけど、確かにケースバイケースでNQCの外にも情報発信していくというのはアリかもしれません。今後、受講者の誰かがそういうYouTuberになってくれるかもしれないしと。そこは今後考えてみたいと思います。
NQC受講は自分の人生を変えるか?
村上:続けて、NQCのプログラムで得た知見や人間関係を通じて、自分の研究やキャリアなどにどんな良い影響があったか、それぞれ教えてほしいです。
髙橋:僕の場合はNQCを受講する前、M2の段階で指導教授が退官してしまうということがあって、どうしようと悩んでいた時に山本先生の講義を受けられたので「僕も研究室に入りたいです」とスムーズに言うことができました。そういう意味ではダイレクトに人生が変わったと言えるかもしれません。
松田:僕はまずさっき話したQunaSysでインターンをさせてもらったことです。量子コンピュータに興味を持った時、「何でも良いから自分も貢献がしたい」「量子コンピュータの実機を見に行きたい」という目標があったんですけど、両方達成できました。ちなみに見学はIBMと理研の2つに行きました。
村上:あとは川戸さんが社会人として何か変わったことがあったか気になります。
川戸:NQCに参加したことをきっかけに少しずつ変化しているのを感じます。先日、とある量子ベンチャーの方とお話しする機会があり、「量子コンピュータのちょっとしたセミナーの講師を募集しているのですが興味ありますか?」というお誘いをいただきました。そこでNQCやIBMのQuantum Challengeにも参加したという話をしたところ、まずはごく初歩的な解説からやってみないかという話になり、まだ実現するかは未定ですが、これから資料作りをするところです。
村上:いわば、教える立場のほうに足を突っ込み始めているわけですね。
川戸:そうですね。挑戦してみようという気になったのは、一つはNQCでの回路QCDの輪講で勇気を出して「自分がこの章を担当します」と言ったことでした。説明の中身は正直、散々だったのですけれども、アウトプットという行為を通じて自分の意識も変わり、非常に良いきっかけとなりました。
村上:今後も周辺で「川戸さんが量子に詳しいらしいからちょっと聞いてみよう」となるかもしれないですね。対等なつながりがあって頼りあえて、それが自身のブランディングにもつながる好循環があるというか。
髙橋:それで言うと、量子の研究者は「みんなもっと量子を使うようになってくれ」と、喉から手が出るほどお願いしたいぐらいなので、頼ってくれれば僕含め多くの人が喜んで馳せ参じると思います。教授クラスだと忙しい人も多いですが、学生であれば結構融通が効くので。
横山:その発言は本当にありがたくて、業界の偉い人が研究も教育も講演もやるしでキャパオーバーになってしまっている部分は実際あります。ただ何もしなければ裾野が広がらない。僕らもそうした動きをより活発に側面支援していきたいと思います。
最後に曽原さんはどうでしたか?
曽原:NQCでの講義を通じて「量子で何でもかんでも解決できるわけではない」ということがわかり、ベネット先生とブラサール先生 という、最先端の物理学を研究している方に「量子脳ってどう思いますか」と直接質問できたのがすごく良い経験になりました。そこで「もしかすると研究できる余地はあるかもね」とおっしゃっていただけて私も背中を押してもらえたというか。
プレゼンを何回も経験させてもらえましたし「自分はこの研究がやりたいです」と自信を持って言えるようになったかなというのはあります。
村上:そうなると実際、今の大学生活の中で勉強や研究ができる環境はありそうですか?
曽原:広島大学には量子の研究室が1つしかないのでそういう意味ではちょっと難しいかもしれません。ですがNQCのサポーターの方から勉強会やウェブサイトに教材をまとめて載せる取り組みのお声がけをいただいているので、個人として取り組んでいこうと思います。
女性受講者を増やすにはどうすれば
横山:曽原さんにはもう1つ聞きたいことがあって、NQCの参加メンバーにもう少し女性を増やせたらなと思っているんだけれど、運営側からすると何をどうすればもっと参加しやすくなるのかなと。とはいえ中には「変に意識されるのも困る」「女性だからという理由だけで優遇されるのは嫌だ」という人もいるだろうし、率直な意見を聞けないかと思って。
曽原:確かにこの分野にはまだまだ少ないですよね。おっしゃるように考え方は人それぞれでしょうが、個人的には受講者、あるいは事務局に女性が1人でもいるかいないかで安心感が全然違う気がしています。こういう座談会でも出席者はどうしても男性ばかりになりがちだというのもありますし、私も協力するので「女性もちゃんといるよ」とアピールしていけるといいと思います。
村上:なるほど。確かにそこは僕らとしても反省点ですね。今後気をつけます。ちなみに量子という分野は数学、物理、生物のように最初から選ばれる学問になっているのか、あるいは数学や物理の延長線だからそもそも入口部分で増やさなければいけないか、どっちだと思いますか?
曽原:私の場合はいきなり量子に興味を持って、後から数学や物理を勉強していったパターンなので、ちょっと特殊かもしれません。
髙橋:個人的にはガチガチに量子力学をやるためには物理学が必要になると思いますが、一方で量子計算機は無限次元じゃなくて2次元とか有限次元なので、行列の計算ができれば理解できる話がほとんどなんですよ。
村上:つまり、今回の曽原さんのケースみたいに文系出身で数ⅢCの経験があまりない状態でも、いったん量子を学んでみるというのは全然アリという話?
髙橋:いいと思います。量子力学のエンタングルメントの話を最初に聞いた時は僕も「一体何なんだ、これは」となってしまいましたが、量子計算機なら「こういう状態になっていますよ」と教えてくれるのでわかりやすいですし、入門編として合っていると思います。
応募を迷う人へのメッセージ
村上:最後に皆さんから、NQCを受講しようか検討している人に向けたメッセージ、アドバイスをいただければ。
松田:NQCの最大の魅力は、僕らが興味を持ちそうな情報やきっかけをたくさん用意してくれることだと思っています。興味を持って横山先生に話をすれば、必ず何かしら協力をしてくれます。
あとは僕も最初は探索型プログラムに参加している研究者の皆さんの話がほとんど理解できなかったんですが、1年間かけて最終的にはなんとなくわかるようになってきたので、そういう意味でも本当にオススメです。
髙橋:既に知識を持っている人もそうでない人も参加できる懐の深さが魅力ですね。加えて企業で量子分野の実用に近い方も結構参加していて、ディスカッションを通じて深いところまで知ることができたのもすごく勉強になりました。もちろん、講師陣は一流の方々ですし、最新の研究内容が聞けるというのも魅力的です。
川戸:扱う内容がソフトもハードも、あるいは量子コンピュータも量子通信もというように、幅広くカバーされているのが大きな魅力だと思っています。他の量子関係のプログラムと比べても特徴的な内容を勉強できると思います。
社会人としては、今の自分のスキルアップにすぐ結びつくプログラムを受講しなければというところも確かにあるのですが、NQCについては純粋に好奇心を爆発させる場としても楽しめました。ですので、迷っているぐらいだったら飛び込みましょうと。私は今55歳ですけれども、この年代でも快く受け入れていただき感謝しています。
曽原:NQCでもいろいろなバックグラウンドの人を欲しているということがわかりましたし、自分の興味関心が意外と量子との接点があるかもしれないと気づくきっかけになると思います。
突拍子もない考えも受け入れてもらえる場所だし、それをさらに磨きをかけられるいい機会になると思うので、ぜひ参加してみてほしいですね。