今、若手量子技術研究者が求める「古典」と「実験」。 量子ICT人材育成プログラム「探索型」を振り返って
活動報告
国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)が2020年度から実施している「量子ICT人材育成プログラム(NQC)」。同プログラムは、最新技術であるがゆえにまだまだ人材豊富とは言えない量子計算や量子通信に代表される「量子ICT」の知見を持つ研究者・エンジニアを増やしていくために設けられたものだ。
プログラムは大きく2種類。量子技術に関心がある人に向けて、入門的に幅広い知識を得るための「体験型」と、資金援助を受けながら本格的に量子技術の調査・開発・研究を行う「探索型」だ。
今回の座談会には、「探索型」に参加し大学院や企業に所属しながら量子技術の研究に励む4人が集まった。量子技術に深く関わりを持ち始めた研究者としての目線から、NQCの魅力と、研究に従事するからこそ見えてくるプログラムの改善点について、忌憚のない意見をもらった。
(聞き役はNICT主任研究員の横山輝明氏が務めた。文・構成:赤井大祐)
<プロフィール>
横山輝明
国立研究開発法人情報通信研究機構 量子ICT協創センター 主任研究員
江守陽規
北海道大学大学院情報科学院 光エレクトロニクス研究室
岡庭龍聖
慶應義塾大学大学院理工学研究科 早瀬研究室
服部智大
慶應義塾大学大学院理工学研究科 田中(宗)研究室
水谷宥介
日本アイ・ビー・エム株式会社
「探索型」に参加した4人の経歴を紹介
横山:今回はNQCの探索型に学生として参加してくれた4人に集まってもらいました。まずは自己紹介と、研究分野を簡単に教えてください。
江守:江守陽規(えもり はるき)です。今は北海道大学 大学院情報科学院に籍を置きながら、電気通信大学で指導委託を受けつつ、さらに理化学研究所の未来戦略室でも活動しています。NQCは2020年度の体験型と、2021年度の探索型に参加しました。その後NICTのRA(リサーチ・アシスタント)にも参加しています。
今は、量子情報分野の量子測定をやっています。広く見ればセンシングとかぶるような部分もありますが、パラメータ推定やパラメータのセンシング、量子状態や物量の測定といったことをやっています。
岡庭:岡庭龍聖(おかにわ りゅうせい)です。慶應義塾大学 大学院理工学研究科の博士課程1年目として、早瀬潤子先生の研究室に所属しております。NQC自体は2023年度の探索型に参加いたしました。
探索型在籍時も今現在も、ダイヤモンド量子センサという量子の力を使って古典センサよりも物理量を高感度に測るという研究を行っております。NQCでは広帯域のいろんな周波数を測るセンシング技術の開発ということで進めさせていただきました。
横山:少し細かいですが、「量子情報」というよりは「量子センシング」の研究、ということですね。
岡庭:そうなります。前に理化学研究所の見学会のあとの飲み会でみなさんがお話しされていた量子情報の話がちんぷんかんぷんでして(笑)。自分としては量子センシングだけにとどまらないよう、視座を広く持ちたいと考えております。
ちなみに江守さんは有名人なのでもちろん知っています(笑)。私は江守さんの知識量や考察力に憧れており、こうなりたいなと思います。直接の関わりはありませんでしたが、「QUANTUM INNOVATION」でニアミスしていました。
江守:ありがとうございます(笑)。そうですね。NQCはこうしてお互いに刺激を与える機会になりますね。
服部:服部智大(はっとり ともひろ)です。僕も慶應義塾大学 大学院理工学研究科の博士課程1年目で田中(宗)研究室に所属しています。NQCも岡庭さんと同じく2023年度の探索型で参加しました。主に量子アニーリングについての研究を行っていまして、量子アニーリングの性能を向上するための手法や、アルゴリズムを考えるということをやっています。
横山:NQCでの研究テーマはどんなものでしたか?
服部:「問題個別性を考慮した量子アニーリングの触媒効果の研究」というものでした。要件を満たせばある程度、任意性のある操作ができるのですが、その要件を満たしつつ、途中の状態を変えることで最終的に得られる解の確率を上げていく、みたいなものです。
加えて、量子性がどのように働いて最適化に資しているのか、まだあまりわかっていないので、それ自体も研究対象となっている段階です。今回の僕の研究も、量子アニーリングマシンの一般的ではない使い方をして性能を上げた、という実績を手がかりに行っているものです。
水谷:水谷宥介(みずたに ゆうすけ)です。日本IBMにソフトウェアエンジニアとして所属しています。NQCでは2020年度の体験型に参加したのと、2022年度にNICTのRAをやっていました。当時は横浜国立大学の堀切(智之)研究室で、「量子中継」という量子インターネットを目指した通信手法の分野の研究を行っていました。
RA時代は量子中継を使ったプロトコルの通信レートをどのように上げるか、という研究をやっており、論文も出版できました。量子通信のレートを上げるために、古典の通信でも使われる「多重化」を効率よく組み込んでどれだけレートを上げられるか、というものです。
アカデミア?それともビジネス?悩める若手研究者の進路
横山:ありがとうございます。みなさんがどういう立場で量子に関わっているのかを聞いていければと思うのですが、水谷さんだけ企業に所属していますね。
水谷:実は日本IBMでの仕事の8割くらいは量子とは関係無いことです。生成AIを扱ったソフトウェアの開発で、LLMをどのようにビジネスやソフトウェアに活用していくかということをやっています。残りの2割ぐらいで、社内で量子に関係する活動をしておりまして、コミュニティ活動や、社外の社会人の人と研究活動をしたりしています。
横山:会社内外の活動でいくと分野的に「Qiskit(キスキット)」を扱うことが多くなりますか?
水谷:まさにそうですね。会社からも仕事として認めてもらいながらQiskitを中心に扱って量子コンピュータの研究を行っています。今年度は社内外から10人くらいが集まって、量子研究をバックグラウンドとしてない人も含めて活動しています。
横山:江守さんはどうでしょう。
江守:それこそNQCの体験型でQiskitを使ってみようというワークショップがありました。自分はそこから探索型で量子コンピュータを使った実験に関する研究を行い、講師でいらしていたIBMの方からインターンにお誘いいただきました。
そこで量子コンピュータの実験の実績もついて、今は量子測定の理論と、量子コンピュータを使った実験実証など、理論、実験の両軸で研究を進めています。その内容で理研から声をかけていただき、結果的に籍をおいて研究を進めているので、横山さんと事前に口裏をあわせたわけでないのですが、NQCのおかげでキャリアが開けたと感じています。博士を取ってからも、基本的には理論がメインとなるので、できればアカデミアで続けていければと思います。
横山:岡庭さんも教えてください。
岡庭:NVセンターを用いた量子センサの研究を行っており、これ自体は博士課程の3年間続けていきたいと考えていますが、すでにレッドオーシャンの世界です。よく言われるのが、原理や基礎理論はわかり始めているので、あとはどのように社会に役立てていくのか、対象をどのように測定するのか、なにを明らかにするのかが今後の課題です。つまり「NVセンターに対してどのような利用価値をおいていくのか」ということを考えなければいけない時期となります。
博士課程が終わったあとはアカデミアか企業かまだ迷っているのですが、量子に関係する研究は続けると思います。ただNVセンターばかりやっていると、他の分野のことがさっぱりわからなくなってしまうので、同じ量子ビットだったらイオントラップとか超伝導量子ビットなどにも足を伸ばし、今後自分がどのように進んでいくのかを見定めていきたいです。
横山:NVセンターの応用という意味ではビジネスにもつながっていきそうですね。起業とかは考えていますか?
岡庭:日本での事例がまだ少ないこともありますし、私自身、自分にできるのか不安もあるのでなんとも言えません(笑)。でもベンチャーで活動している人を見ていると、面白そうだなとも思います。興味はもちろんあります。
横山:服部さんは量子アニーリングの研究ということですが、同じくビジネスにも興味あったりするのかな?
服部:自分はビジネスよりもどんな場所で使えるのかに興味があります。それをお金儲けに活かすのも得意だったらやりたいんですが...自分はおそらくそうではないと思います(笑)。使い方によって物理に現れる問題の性質の違いなど、そういうところも楽しんでいきたいし、興味があります。
研究の話につなげると、今NQCでやったことの発展型のような研究をしています。学部から量子アニーリングをやってきましたが、「情報の話を量子系で書ける」のが面白い。たとえば「巡回セールスマン問題」(※複数の決められた地点をセールスマンが巡回して戻る際、どう回れば最も移動距離が少ないか、という最適化問題)は物理のことを知らなくても、物理でマッピングをすることで量子系の物理の問題として議論できます。そういった「情報と物理の対応関係」に興味があり、研究を続けていきたい視点の一つです。企業かアカデミアかはまだ決めていませんが、今後も研究は続けたいと思っています。
ところで量子アニーリングってどう?
横山:素人質問的に服部さんに聞いてみたいのですが、量子アニーリングの強みはなんだと思いますか?
服部:たとえば最適化などの応用範囲で使われてはいるものの、現状インスパイア技術も多いです。それは、量子アニーリングマシン自体が成熟した技術というよりは発展途上ということだと思います。つまり今は、量子アニーリングの「強みを探る」時期です。
統計物理や「量子アニーリングマシンで表現できる物理」みたいな方向にも興味を広げていけると思います。例えば1次元のモデルを量子アニーリングマシンで実験場として使う手法や、シミュレーション的な使い方も研究されています。
そういう意味で量子アニーリングは「今これがすごい」というより、その「すごい」部分がどこにあるかを探し、性能を上げていく段階なのかなと考えています。
横山:性能を上げるためには量子を制御する工学的技術も必要になってきますね。
服部:マシン自体の性能が向上しなければならないということもありますし、量子アニーリング自体、量子性をどのように活かしているのか理論的な証明がないので、その探索を含めて様々な課題があると思います。
横山:ありがとうございます。このアニーリングの世界は、皆さんも原理や基本的な理解は持っているものですか?
江守: それこそ僕は体験型に参加した理由にも繋がりますが、まずは量子技術について幅広く勉強して、「なにができるのか」「どのような背景があるのか」を把握したうえで研究をしようと決めていたので、そのタイミングで量子アニーリングについても調べていました。
水谷:アニーリングはRAでも初めて少し触らせていただきましたが、それがすべてです。その中でD-WAVEが使えるようなSDKを使って量子通信の経路最適化といったことを少しやりました。直接は量子通信と重なりませんが、量子通信を発展させるための一つの手法として、アニーリングが使える、ということはあると思いますので、開拓の余地があるのではないでしょうか。
横山:量子アニーリングは事例も多く生まれている分、産業界とも相性が良いし、人々の理解も進んでいるかもしれませんね。
水谷:企業で携わっている方も多いので、トピックとして話題に上がることはかなりあります。
横山:服部さんと水谷さんに聞いてみたいのですが、例えば「量子通信」「量子アニーリング」「量子ゲート」のいずれかの組み合わせで、何か嬉しい話は思いつきますか?
水谷:難しいんですが、まず量子通信と量子ゲートでいくと「分散量子計算」は一つの大きな目標だと思います。古典の世界でも分散システムは、特に初期の頃には非常に重要なアプリケーションのようなものだったと思うのですが、量子の世界でもそれは非常に重要だと考えられています。
分散量子計算では、一つの計算を行うために遠く離れた複数の地点でゲート操作を行いますが、リモートでやるためには量子状態を維持したまま遠隔地に量子状態を送らなければならない。そこで量子通信と分散量子計算、ゲート型の量子計算というのはまず一つ密接に関係してくると言えるかと思います。
服部:直接量子状態を扱うという点では、量子通信と量子アニーリングは関わることはあまりないという認識です。例えば量子通信の中に潜む最適化問題に対して量子アニーリングが使われたり、ゲートの中の誤り訂正符号のデコードに量子アニーリングを使うといったことが考えられます。量子状態のまま使うのではなく、量子計算や量子通信の中に潜む最適化問題にアニーリングを使うという研究は結構あると思います。
「幅の広い」分野、レベル、参加がNQCの魅力
横山:体験型、探索型に限らず、NQCに興味を持ってくれている人に向けて、NQCで経験できてよかったこと、具体的なアピールポイントとなるような部分について教えてもらえると嬉しいです。
江守:最前線で研究されている先生方から、ほぼ月1のペースで、1日中たっぷり時間を使った講義を受けられたことです。僕がNQCに参加したのは、学部3年生で研究を始める一歩手前の段階でしたが、手短に分野の"最先端"を知る良い機会となりました。
特に参加者層も幅広く、質問も多様で「こんなこと考える人がいるんだなあ」という驚きや、「同じぐらいのレベルの人と一緒に講義を受けて勉強できて嬉しい」というような仲間意識を感じられたので、やる気を維持しながら最後まで楽しめました。
もう一つは、コミュニティとしての機能によって、多くの方と知り合い、ディスカッションができたことです。それがおそらく冒頭に岡庭さんが話してくださった(業界内に知り合いが多い)ことに繋がってくるのかと思いますが、NQCでの「囲む会」に始まり、そこで知り合った方と学会などのいろいろな場所で顔を合わせて、さらに知り合いの知り合いに繋がり......と、どんどん輪を広げられました。
―― 岡庭さんはどうでしょう?
岡庭:はい。私自身は実際に最初の対面のときに企業の方とたくさんお会いできて、それがすごく面白いなと思いました。というのも小坂先生がNQCの講義でおっしゃっていたように、量子技術って実験の目線からすると、ある意味で「古典技術をどこまで高めるか」に直結すると思っています。その古典技術は、やはりいろいろな機器を供給してくださる企業の皆様のご尽力あってこそだと感じております。
そうしてお会いした方々の中には「光学フィルター」、つまり特定の波長だけを通し、ある一定の波長は通さないフィルターですが、目で見ただけでこれはどの波長を通すフィルターかがわかる、"利きフィルター"ができるっていう方を見てすごくびっくりしたこともありました(笑)。そういった方々と繋がれるのはとてもおもしろかったです。
実験系はブラックボックスになってはいけませんし、量子をつかさどるには古典の技術が必要で、その古典を理解するためにはやっぱり企業が出している製品のことをよく理解しなきゃいけないとも考えています。
あとなにしろ小坂先生の金言に触れることができたのもとても良かったと思います。そして私自身、理論が弱いことにすごくコンプレックスを持っているので、理論が強い方々の発表を聞いて、「自分もどうにかしないと!」と思うことができたのは、すごくプラスになったと思います。
横山:ありがとうございます。服部君はどうですか?
服部:僕が感じたのはカバーしてる分野の範囲がとても広いことです。そしてもっと言えば分野の広さだけじゃなくて、「レベル感の広さ」もよかったと感じていて、それこそ佐々木(雅英)先生のようなものすごく量子に詳しい方もいれば、体験型で量子について初めて学びます、という人もいる。
僕の体験として、最終報告が終わった後に探索型の同期と、「やってることは結構違うけど、実はこんなところで関係があるんじゃないか」みたいな議論をしたこともありました。他にも当時学部3年生の人に質問をもらって説明をしたり、反対に初学者だからこその柔軟な考え方を学ぶこともありました。
業界の中で、異なるレベルの人が共存することはほとんどないような気がしています。例えば学会はどうしても専門性の高い人が集まりますし、僕は慶應で量子コンピューティングを教える講師をしていますが、そこには専門性の高い人はいません。両方が共存してるのは、異様であり貴重な場だと思いました。
横山:最後に水谷さんお願いします。
水谷:そもそも私がNQC以前にやっていた研究っていうのは量子通信だけでした。NQCに入っていろいろな分野に触れることができたことは大きかったと思います。量子コンピュータもNQCで触るのがほとんど初めてだったので、今こうして量子コンピュータのソフトウェアに触れているのもNQCのおかげです。単純に興味の幅を広げるだけではなく、業界を知ることで、俯瞰して自分の研究の立ち位置を見るのはいいことだと思っています。
横山:みんなの意見を聞いていると「幅の広さ」はNQCの特筆すべき点なのかもしれないですね。レベルがバラバラになるのはある種やりにくさもあるんじゃないかと思う一方で、確かに他には無いことで、視察に来た外部の方々からもこの点についてはよく言及いただきます。
「量子技術だけ」じゃ物足りない?4人がNQCに期待すること
横山:最後にこれからNQCに期待することを教えてください。量子技術についてある程度学習を深めた皆さんの立場から、こうすればもっと良くなりそう、といったアイディアを共有してもらえると嬉しいです。
江守:一つ思うのは、日本は量子の実験家がだいぶ少ないらしく、そういう意味で理論にとどまらない、実験・実習に焦点を当てたプログラムがもう少しあると良いかもしれません。
元々僕は「実験家で理論が強い人」になりたかったんです。実験家の研究室に行って、量子光学やQKDといった実験系に少し触れていたのである程度の知識もありました。でもNQCでは「実験の研究室がないので理論しかできない。でも実験にも興味あるからNQCで実験の話を聞いたが、あまりイメージが湧かなくて、やっぱり理論でできることをやりました」といった話も聞きました。
ハンズオン形式での実験室見学、実験家の先生の講義、あとは実験室のメンバーの方と対面で機器の扱いや実験の手法について教えていただけたら、今後最先端の教育として独自性のある良い機会提供になるのかなと思っています。予算面や制度面で難しいかもしれませんが、それをぜひ期待したいと思っています。
横山:講義の中に巧みに体験を混ぜることで、実験方向のキャリアの動線をうまく作っていけると良いかもしれませんね。
岡庭:「NQCの良かったこと」にもつながる話ですが、今、量子技術を支えているのは古典技術であったりしますよね。例えばオシロスコープ、スペクトラムアナライザー、ロックインアンプなど。実際こういった機器は量子測定でもすごく重要になってくるので、「量子を支える古典技術」というように、より深い講義や実習を増やしていただけると実験家としてはありがたいです。
江守:いいアイディアすぎて思わずZOOMのマイクをオンにしました(笑)。例えば量子コンピュータを作るための周辺の古典技術、制御技術、例えば日本発のQuELとかの特別講演や講義を年度に1回設けるのは本当にいいかもしれないですね。古典技術分野の人たちが量子に入りやすくなるきっかけにもなるかもしれません。
岡庭:ありがとうございます。実際に私の研究室で回路とかNVセンターを使ってイメージングをしている人がいて、自分たちとしては当たり前だと思っていたのですが、企業の方々の中で、「すごく小さなスケールをこんなに綺麗に測ったり、イメージングできたりするのか」と話題になったそうです。企業の方も量子に興味を持っていただく機会になりうると思うので、「企業と量子技術を繋げるプログラム」があってもいいのかもしれません。
あと個人的には参加できませんでしたが、Qiskitを使った実習や、Mathematica、Python、MATLABなど、実際に皆さんが研究で使うソフトウェアでどうやってシミュレーションをしているのか、個人的にすごく興味があります。引き続きそういったソフトの部分のプログラムはぜひ続けていただけると嬉しいです。
江守:それで言うと、量子コンピュータって古典コンピュータと計算の実装の仕方が少し違うので、プログラミングもとっつきにくいみたいな話がありますよね。よく言われるのは、Pythonは使っているから言語には馴染みがあるけど、ソフトウェア的な観点だけから言うと具体的に何が違うのかわからない?というものです。
つまり、何が同じでどういうふうに理解すればいいのか、という話でもあって、「古典の論理回路を直接アセンブリで機械語で打ち込むようなイメージ」とよく説明するんですけど、量子アルゴリズムや量子ソフトウェアのプログラミングに馴染むためのとっかかりを作る講義があるといいなと思います。それこそ水谷さんで言うところのQiskit AdvocateとかでQiskitを広めていく話に近いのかなと思いました。
横山:水谷さんとしては潜在顧客へのアプローチになりうる話かもしれないですね。期待する部分もあわせて聞ければと思います。
水谷:もう本当に話を聞いてておっしゃる通り過ぎ、という感じです。付け加えることはないのですが、やはり古典と量子の関係性は重要だと思います。一つの分野の中にも、そこに関わる技術者はたくさんいます。それを1人で全て把握するのはまず不可能だと思うので、その技術分野に携わる技術者の方々と会って、ディスカッションができるコミュニティがあったらいいなと感じています。
そして江守さんの話からつなげて日本IBMの立場から言えば、NQCのカリキュラムにQiskitを触る講義も含まれていると思うんですが、NQCにいろんなバックグラウンドを持つ参加者が増えることで、そこでもっと多くの、多様な参加者にQiskitを触ってもらえたらすごく嬉しいです。
横山:最後に服部さんからお願いします。
服部:正直、あまり不満に思ってるとこはないんですが、さらに良くするには、もっといろんな人に入ってほしいと思います。特に体験型は「量子について幅広い知識を得たい」と最初から考えて来る人が多いと思いますが、自分の専門にどっぷり浸かりたい人もここで一度立ち止まって視野を広げるとかなり違った研究ができるのではないか、と僕はNQCでも改めて感じました。ですので専門に特化してる人たちに届くと良いと思います。
横山:量子以外の専門も含めて、いろいろな個性や特徴を持った人が来てくれるといいですね。
江守:NQCって応募の段階では参入障壁が結構高く見えるんです。書類を用意しなきゃならないので、学部生とか高校生としては、それだけで一気にハードルが上がってしまう。けど入ってみたら、こう言ったら失礼ですが、横山さんのような"永遠の初心者"みたいな方もいます(笑)。本当に誰もが馴染やすい環境作りがされているので、こういった形式に慣れていない初学者の人にもそれが伝わると良いですよね。
横山:ありがとうございます(笑)。今回は学生中心に集まってもらいましたが、NQCの特徴としては"元気の良いシニア層"というのもいます(笑)。皆さん好奇心があるし、いろいろなバックグラウンドから持ち込んでくれるものも多いと思います。
今後「社会人の会」みたいなこともやりたいとは思っているので、今の水谷さんのように企業の中で少しでも量子に関わっている人など、産業界の方々にも覗きにきてもらえると色々と幅が広がっていくのかなと、ヒントをもらえたと思います。ありがとうございました!