研究者も「不思議」と口を揃える量子技術の世界へ飛び込む。2023年度「量子ICT人材育成プログラム」振り返り座談会

前列左から阿讃坊元さん、伊藤大輔さん、丸茂直樹さん、高橋可愛さん。後列はNQC運営メンバー

参加者は高校生から社会人まで。量子技術の世界をくまなく知る1年間。2023年度「量子ICT人材育成プログラム」振り返り座談会

国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)が2020年度から実施している「量子ICT人材育成プログラム(NQC)」。同プログラムは、最新技術であるがゆえにまだまだ人材豊富とは言えない量子計算や量子通信に代表される「量子ICT」の知見を持つ研究者・エンジニアを増やしていくために設けられたものだ。

プログラムは大きく2種類。量子技術に関心がある人に向けて、入門的に幅広い知識を得るための「体験型」と、資金援助を受けながら本格的に量子技術の調査・開発・研究を行う「探索型」だ。

本稿では2023年度の「体験型」に参加した5人と、NQC運営メンバーによる座談会をお送りする。これから量子の勉強を始める高校生、研究室で指導者と二人三脚で量子の研究を行う大学院生、働きながら大学院に通い量子の勉強を始めた社会人といった、非常に幅広いバックグラウンドを持つメンバーが集まり、それぞれの視点から見たNQCのプログラムについて、そして量子の"不思議"な魅力について語っていただいた。

(聞き役はNICT主任研究員の横山輝明氏と、株式会社ギブリーの村上友章氏が務めた。文・構成:赤井大祐)

<プロフィール>

横山 輝明
国立研究開発法人情報通信研究機構 量子ICT協創センター 主任研究員

村上 友章
株式会社ギブリー

阿讃坊 元
慶應義塾大学理工学部 物理情報工学科

伊藤 大輔
横浜国立大学 大学院工学研究院/先端科学高等研究院

髙橋 可愛
大宮国際中等教育学校

半田 沙里
社会人

丸茂 直樹
早稲田大学 基幹理工学研究科 情報理工・情報通信専攻

量子に興味を持ったきっかけはYouTube?

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横山:それではよろしくお願いします。NQC事務局の横山輝明(よこやま てるあき)です。普段は「SecHack365」というハッカソンプロジェクトなどに携わり、セキュリティ人材育成を主にやっております。教員経験もあるため、NICTではNQCをはじめとした人材育成に関わっています。

村上:同じく、NQC事務局の村上友章(むらかみ ともあき)です。ギブリーというハッカソンを多くやっている会社に所属しておりまして、横山先生とも10年ぐらいの付き合いになります。今日は皆さんからNQCについて率直な感想を伺えればと思います。

横山:それでは自己紹介やご自身の研究についてお聞きできればと思います。

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横山輝明(NICT)

半田:半田沙里(はんだ さり)です。普段は量子の研究などをしているわけではなく、システムエンジニアとして仕事をしています。もともと個人的に量子の世界にとても興味があったことと、最近は仕事でも量子について知りたいことが増えてきたため参加しました。

阿讃坊:阿讃坊元(あさんぼう げん)と申します。慶応義塾大学の学部4年生で、物理情報工学科の早瀬研究室に在籍しております。研究室では光を使って物質の性質を調べるということをやっています。量子メモリを作っている、というとわかりやすいかもしれません。量子メモリのために適切な物質を探し、どのような光を当てたら効率よく情報を蓄えられるか、といった研究を行っています。
NQCは研究室の先生でもある元NICTの早瀬先生が、学年全体に宣伝していたことをきっかけに知りました。もともとはソフトウェアに関連するアルゴリズムや量子情報のトピックがメインだと思っており、自分は情報よりも物理に興味があるので参加しないつもりだったのですが、たまたま友人に誘われたのを機に参加してみました。情報に興味がないといえど、量子情報分野を勉強するにあたっては知っておくべきことが講義に組み込まれていたので、とても勉強になりました。ちなみに誘ってくれた友達は応募書類を出しそびれて参加できませんでした(笑)。

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阿讃坊元さん

伊藤:横浜国立大学 大学院工学研究院/先端科学高等研究院の小坂研究室に所属している伊藤大輔(いとう だいすけ)と申します。受講時は学部4年生で、現在は修士1年です。
現在の研究室には所属して4年目になります。研究室ではNV中心(ダイヤモンド窒素-空孔中心)の研究を行っているのですが、その周辺についてまだまだ知らないことばかりなので、量子情報だけでなく、計測など幅広く勉強したいと思いNQCに参加しました。

横山:伊藤さんは小坂先生の研究室ということですが、やはり実験が多いのでしょうか?

伊藤:そうですね。ほとんど実験をやっています。個人的にはプログラミングも好きで、小坂研で研究しているダイヤモンド量子コンピュータをQiskitで公開しようとして、一瞬だけ公開したりもしていました。プログラミングは得意ではありますが自分は実験屋さんなので、あくまで個人の興味の範囲という感じです。

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伊藤大輔さん

丸茂:早稲田大学の基幹理工学研究科情報理工・情報通信専攻、修士1年の丸茂直樹(まるも なおき)です。木村(啓二)研究室に所属しており、量子機械学習について研究を行っております。実は木村研究室は自分が入ったタイミングで量子の研究を始めたんです。そこで、これから先生と一緒に勉強していこうというタイミングでNQCのことを知り、研究室の中だけでは触れる機会のない量子に関する基礎的な情報を自分から取りに行かねばと思い参加しました。

横山:もともと量子の研究をされていなかった方の研究室で量子の勉強を始めるのは珍しいパターンですね。

丸茂:木村先生はもともとマルチコアのアーキテクチャやコンパイラの研究をされている方で、研究室内で量子をやっているのは自分だけです。学部3年生のときに早稲田で量子の研究をされている戸川(望)先生と面識ができ、それをきっかけに量子に興味を持ち、勉強を始めました。早稲田の情報系で量子の研究ができるのが木村研究室と戸川研究室しかなく、縁あって木村研に入りました。

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丸茂直樹さん

横山:高橋さんお願いします。

高橋:大宮国際中等教育学校、高校3年生の髙橋可愛(たかはし ありあ)です。もともとプログラミングに興味があって、あるとき量子コンピュータを学びたいと思い、いろいろ検索していくうちにNQCを見つけました。調べ始めた当初は一つ一つの用語すら全然わからなかったのですが、調べていくうちに量子中継、機械学習、量子コンピュータなど、いろんなことに興味が出てきたので参加してみました。

村上:プログラミングはいつ頃から興味を持ちはじめたのですか?

高橋:学校の必修科目で「情報1」という授業がありまして、そこから簡単なHTMLやCSSは書けるようになりました。それを経て、Pythonを自分で学んで、たしかYouTubeのおすすめ動画に量子コンピュータについての動画が表示され、それをきっかけに興味を持ちました。

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高橋可愛さん

横山:若い世代はYouTubeで勉強されている方が多いですよね。「ヨビノリ(予備校のノリで学ぶ『大学の数学・物理』)を見て物理の勉強をはじめました」という声はよく耳にします。

心に残った授業

横山:心に残った先生や授業について教えてください。

半田:JAXAの荒木智宏さんのお話はすごくおもしろかったです。宇宙の衛星や光通信の話に始まり、衛星同士での通信の難しさなど。10年後とか近い未来には宇宙光通信が当たり前に使われると思うとすごいですよね。

横山:授業をやる側としては、つい量子の話を期待されていると思ってしまいますが、当然学生の方はそれぞれ興味関心の分野が違っていて面白いです。

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阿讃坊:自分は小芦雅斗先生と武岡正裕先生の暗号通信の授業が面白かったです。NQCに申し込んだときは量子暗号の重要性をあまりわかっていませんでしたが、量子コンピュータでは、古典の暗号に対してどのようなことができ、それによって量子暗号の重要性がどのように増していくのか、といったことがなんとなく掴めたのが良かったです。
加えて、自分は光が好きなんです。NQCの講義で取り上げられた宇宙における量子通信であっても量子暗号であっても伝送するのは「光」であり、他にも事あるごとに光が出てきたじゃないですか。光が好きな自分からするとそれだけで全てが魅力的でした。

伊藤:僕も小芦先生の授業をとても楽しみにしていました。ただ、量子通信関連は自分の専門に近い領域ですので「復習の時間になるかも」と思っていたのですが、知らない話が多数出てきたことに驚きを覚えましたが、これだけ知らないことがあるならもっと勉強をしようとモチベーションが上がるきっかけになりました。

丸茂:自分はQiskitの実習が楽しかったです。話を聞いているだけでは直感的になぜこうなるのかがわからなかったりしますが、シミュレータを通すと分布を目で見てわかるので納得しやすいんです。ですので話を聞くだけでなく手を動かすことも好きなんです。

量子に興味を持ったのはいつ?

横山:量子を研究している人の中でも基礎から応用、理論、実験と得意とする領域やアプローチの角度が変わってきますね。

伊藤:それで言えば自分は理論と実験の中間に位置すると思います。NV中心を使ってなにかを実装するための実験を行っているので、そうなると理論やアルゴリズムの勉強が必要になります。自分の印象では、いわゆる基礎実験と言うか、足場を固めるための実験をして物理系を考えていく人と、実際にそれを使ってテストを行っていく応用側の人、がいると思います。自分は比較的応用側ではあるものの、理論屋から見ると基礎レベルだと思います。

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横山:丸茂さんは量子機械学習となると応用側ですね。どんな研究をしているのでしょう?

丸茂:はい。自分は完全に応用です。研究について言うと、そもそも量子機械学習に使う「NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)」ではノイズが発生しやすいのでそれを最小化したいわけです。そして同時に学習性能も上げたいわけですが、これらがトレードオフ関係になっているので、バランスの取り方を調べるということを学部4年生のときに行いました。現在はそこから少し変化し、量子機械学習では何度も計算を実行しなければならず、すごく時間がかかるので、その計算時間を短縮することはできないか、というようなことを研究しています。

横山:ありがとうございます。それで言うと高橋さんは具体的にどういった方向から量子に関わっていくのか考えていますか?

高橋:まだ調べている途中なのですが、工学部とかに行って量子コンピュータの研究ができればと考えています。

横山:今、量子コンピュータを学ぼうと思うと、それこそ半田さんのように一度別の方向に進んでから学び直す人もいますし、様々なルートがありますからね。他のみなさんは大学に入る時点から量子をやろうと決めていましたか?

伊藤:高校3年生のときに、量子コンピュータについてたまたま知って「すげ〜!」となりました。それから調べていくうちに量子コンピュータよりも、量子情報通信に興味がでてきて、ということであれば、分野におけるトップクラスの小坂研究室しかないだろう、ということで横浜国立大学を選びました。

阿讃坊:自分は少なくとも高校生の時点では量子の研究をすることについては全く考えていませんでした。慶應は各学科への振り分けが2年からなのですが、そのタイミングで少しずつ物理に興味が湧いてきて、結果的に物理情報工学科という科に進みました。
応用物理をやっていると自然と量子を扱うことになると思います。自分は数年前までは将来のことなんて具体的に考えられていなかったので、大学受験では他に物理を扱う以外の学科も受けましたし、大学に入ってからも関係ない授業も取ったりしていました。2年生、3年生と時間を過ごすうちに、だんだんと「光」が好きになってきて、それに関連した研究室に進みました。

正社員勤務中に博士号取得も。進路はどうする?

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村上友章(ギブリー)

村上:半田さんはシステムエンジニアとのことですがどのようなキャリアを歩まれて来たのでしょう?

半田:大学は建築学科だったのですが、システムエンジニアとして就職しました。そこで数年経ってから暗号を使ったシステムの開発をすることになり、情報セキュリティ大学院大学という、セキュリティを学べる大学院に通い始めたんです。数学の勉強もそこで始めました。セキュリティの中でも暗号理論が面白くて暗号理論の研究室に所属していました。

村上:就職時は情報系の学習経験はゼロでしたか?

半田:そうですね。社内研修でプログラミングを学びました(笑)。

横山:そこでセキュリティに出会い興味を持ったんですね。

半田:そうですね。大学院では耐量子暗号である準同型暗号の研究をしていました。量子コンピュータが実現されても破られないような古典側の暗号の研究ですね。

村上:大学院は会社に行きながらでしたか?

半田:はい、修士のときはそのまま両立するかたちで、博士に進んでからは週4勤務にしてもらい、月曜から木曜で仕事、金土日は大学院、みたいな生活でした。

一同:(驚き)。

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村上:量子に関わる人は学生時代からやってる人が多い印象ですが、全く違うキャリアを歩んでいる方もいるんだと驚きです。

半田:正直若い頃からやっているみなさんが羨ましいです(笑)。いまは耐量子暗号が求められているので、最近は暗号分野でも量子に関わる方が増えていますね。

横山:今大学、大学院で研究されている3人はこの先の進路についてはどう考えていますか?

丸茂:今修士1年なので就活をはじめようと思っています。博士にも興味があるので、働きながら博士を取らせてくれるような職場で、なおかつ量子に関わる仕事ができそうなところに就職したいと考えています。

伊藤:僕は量子が今は一番おもしろい時期で、これを逃すのはもったいないと思っているので、博士に進むことを決めてます。

半田:小坂研は世界でも進んでる研究室ですもんね。

伊藤:そうかもしれません。最近はデルフト(工科大学)とハーバードがものすごいので、追いつけるように頑張っています(笑)。

阿讃坊:私は修士には絶対に進もうと思っており、、博士課程にも強い憧れがあります。博士そのものへの憧れもありますし、将来仕事を選べる立場になるには相応の実績も必要になると思うからです。今後も今と同様に光を中心に扱うような研究をしたいと思っています。

量子の魅力は「不思議さ」にあり

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横山:量子コンピュータについてほとんど知らない人に「量子は◯◯が面白いんだよ」と伝えるときにどう説明するのか、皆さんは量子のどんな部分に魅力を感じているのか聞きたいなと思います。

阿讃坊:自分はなにかができる「かもしれない」という部分が面白いし、そこに惹きつけられています。つまり、何ができるのかも十分にはわかっていないけれど、何かができるかもしれない。それを研究してるのが面白いんです。それでも具体例を出すとすれば、物理で計算リソースの問題から今までは近似を使うしか方法がなかったような計算も量子コンピュータを使うことで正確に計算できるようになってくる、といった話ははっきりとした目標として面白いと思いますし、同時にそれ以上に何かができそうな予感を強く感じています。

伊藤:量子って特有の"不思議さ"があると感じませんか?たとえば重ね合わせのように、直感に反するところがあると思っています。つまりそれは人類が全然知らない領域、という感じがしますよね。

村上:直感に反する、というのはすごく理解できます。先生方の話を聞いていても説明はできないけれど「こういうもの」として考えると話が通じる場面は多々遭遇します。

伊藤:普段「光子」といって、とても弱い光の粒を扱っているのですが、それを数える装置があるのに実験を行うとそれらが波として干渉してくる。それを見ると「なんだコレ?」みたいな気持ちになると同時に量子らしさを感じますよね。さらに言えば、これを生で感じられるのが実験屋さんの面白さでもあると思います。

半田:私も伊藤さんの言うように量子の「不思議さ」が一番惹かれるところです。量子コンピュータは本当に使えるものになるのか正直懐疑的なところもありますが、量子通信は現実的なところまで来ているので、「不思議さが実用化される」ところにとてもワクワクします。不思議だし、よくわからないけれど確かにそこに存在する、という魅力ですよね。

丸茂:自分は逆に半田さんがおっしゃるような量子コンピュータに対するハードルがモチベーションであり、魅力に感じている部分です。難しいと言われている分野に挑戦することが楽しいと思っています。それに先々実用化されるかもしれない未来で、自分の研究が参照されたり、なんらかの形で少しでも関わることができたら自分としては嬉しいなと思います。

高橋:私も量子に対する「不思議さ」を感じつつも、それが徐々に実装され、身近になっていくかもしれない未来への期待感です。

横山:みなさんが言う「不思議さ」は一つのキーワードですね。同じくらい不思議なものと言われてもなかなか思いつかない。ある種の人類未開のフロンティアという印象すらあります。それにふとした発見で認知がガラッと変わるかもしれません。よく学生に話しているのが、"既知と未知"ということ。教科書を使って既知を学ぶのが勉強、まだ人類が到達していない"未知"を開拓するのが研究。みなさんが量子の未知に興味をもち、解明しようとしているのかなと期待をしています。

実用化が目される量子技術は?

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村上:みなさんが研究されている量子技術の中で、10年、20年後の近未来において一般化が期待される、実現可能性の高いものはなんだと思いますか?

丸茂:情報系でいうと、アニーリングは社会実装されてきているので早いような気がします。手軽に組み合わせ最適化問題を解くことができるようになり、物流に関する問題を解決する可能性を持つのではないかと思います。

村上:物流など、効率化や最適化等の話に繋げやすい領域は進展がしやすいのですかね。。

伊藤:確かにD-WAVEなどは既に商用化されているとも言えますね。自分は一番最初に実用化されるのは量子鍵配送じゃないかと思います。

阿讃坊:自分の研究室で扱っているものは、実用化まで何年かかるかというのは正直わからないです。直近での社会実装を目指したものというよりは、基礎的な物理を明らかにする、といったモチベーションのほうが近いかもしれません。もう少し実用的な話で言えば、ある理論に対してそれを実験で実際に試してみる、というケースもあります。

横山:理論の人が実験データを活用して新たに理論を構築し直す、といった逆流もよくあると聞きます。伊藤さんたちのような実験家の方々の試行錯誤や失敗が重要な蓄積となり、研究開発が発展していくのだなと感じています。量子分野に限らず多くの研究は「まあ僕が生きてる間にできることはこれくらいでしょ!」といったある種の役割分担的な見方もありますよね。長い研究期間を経て、次第に人類が量子を制御できるようになる過程のように思っていて、理学と工学が連携をして発達している様子のように見えます。

伊藤:「技術を枯らせる」と先生はよく言っていますね。基礎研究を通じてどんどん技術を枯らせていくことで、ようやく応用へと繋がっていく。もちろん量子に関してはまだまだ枯れそうにありません(笑)。

横山:最終的には、誰もが電源をつけるだけで使えるという、再現性をもった応用へと進化していく、ということですしょうか。今まさに人類が量子という自然現象をねじ伏せてコントロールしようとしている過程のように見えます。

丸茂:今自分が研究している量子機械学習はサイズが120のデータを学習するのに20分程度かかる上に、精度は古典の機械学習と同じようなものです。ですが、後々ハードウェアがまともに動くようになった未来でまともに動くソフトウェアがないという状態は避けたい。「最低限こういうことはできます」、といった状態にしておきたいという思いはあります。

横山:量子はいい意味で期待が先行しているように思います。古典コンピュータでいえば、昔は電子を使って形式的に計算していたところから今では誰もがYouTubeを見られるようになった。成功体験が人類に蓄積されているので、量子もうまくいけば面白いことが起きるかもしれない、という期待があり、モチベーションに繋がっているのかなと思います。

それぞれのから感じたNQCの魅力

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村上:最後に、今年からNQCに参加しようかなと考えている人、あるいはNQCを知らない人へオススメするためのメッセージをいただきたいと思います。まず高橋さんにお聞きしたいのですが、その前に今回のプログラムはどうでしたか?実際に研究をされていない方からすると初めて聞く言葉ばかりだったと思います。

高橋:すごく幅広く取り扱っていたので、自分の知らないことに触れ視野が広がりました。理解は大変だけどその分知識の幅が広がったのでよかったですね。もちろん計算式とかを全部理解できているわけではないので、ポイントごとに調べたり本を読んだり、あとはAIに聞いたりして少しずつ理解していけたと思います。

横山:もし同じ高校生を誘おうと思ったらどんな人におすすめできると思いますか?

高橋:そうですね、自分のレベル感を気にしてしまうかもしれませんが、それよりも量子力学や量子技術に興味があればまずはおすすめしたいと思います。

横山:ありがとうございます。では他のみなさんもお願いします。

半田:どの分野にどんなトップの先生がいるのかを知れるのでその点で特に進路を選ぶ学生の方々にはおすすめしたいです。社会人の視点からも興味に応じて尋ねるべき先生がわかったので良かったです。

村上:何箇所もオープンキャンパスに行くよりいいと思います。社会人目線だと「縁を作る」というのは大きなメリットかもしれません。加えて個人の探究心を潤わせ、さらに仕事へと繋げていくことができるのではないでしょうか。

丸茂:自分もネットワーク作りは大事だと思います。私は所属研究室で量子について学んでいるのが自分一人なので、同世代の量子分野での仲間やライバルとなる存在ができたのがよかったです。講義の内容も、「量子」とつく分野についてかなり広くカバーしていて、量子通信や量子暗号など、自分が全く知らなかった領域についても学べたので良かったです。

阿讃坊:単語レベルで興味はあるけど、詳細を知らない、という人にオススメしたいです。NQCでは「量子通信」「量子暗号」とか、それまでは具体的には知らなかったことに広く触れる機会をいただけました。また自分にとっては大学の授業では学べないようなことについて、踏み込んで基礎から学べた点も魅力的でした。

伊藤:自分のように量子情報分野に既に入っている立場からも、学びの多いプログラムだったと思います。自分の専門外の分野について広く学べると同時に、同じ分野に対して興味を持つ人とディスカッションをしたり、知識を深め合っていける場としてとても有意義だったと思います。

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最後に、2024年度もNQC体験型を開催します。ご興味をお持ちの方のご応募をお待ちしております。