2025年度探索型人材育成コース受講生インタビュー
活動報告
2025年度探索型人材育成コースを修了された受講生の方々に4つの質問を投げかけてみました。NQCの参加を検討されている皆様にとって参考にしていただけると嬉しいです。
【1-1】今回、あなたが提案・実施したテーマについて、紹介してください。
【1-2】NQC(2025年度探索型人材育成コース)の参加や活動にて、何か変化はありましたか?
【1-3】NQCでの経験は、今後の研究・開発・キャリア形成にどのような影響を与えると思いますか?
【1-4】これからNQCに応募する人へ、アドバイスやメッセージがあればお聞かせください。
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研究テーマ Research Topics |
|---|---|---|
| 2025-R-101 | 村口 武尊(Takeru Muraguchi)さん | 気象予測へのゲート方式の量子コンピュータの応用可能性の探求 Exploring the application of gate-based quantum computers for weather forecasts |
【1-1】今回、あなたが提案・実施したテーマについて、紹介してください。
本研究では、ゲート方式量子コンピュータの気象予測への応用を見据え、量子リザバーコンピューティングとデータ同化を組み合わせた手法を実装しました。この手法を元に気象現象を模倣したモデルの予測を実施しました。この研究での独創的な点は、これまで行われていなかった量子リザバーコンピューティングとデータ同化の組み合わせを実現したことです。量子回路で計算したリザバー状態に対して直接データ同化を適用する工夫を行いました。実験において、量子リザバーコンピューティング単独の予測では、予測結果が途中から正解の値から離れますが、データ同化を併用することで長期間にわたり正解に近い予測結果を維持できることを確認しました。これにより、量子コンピュータを用いた手法においても、現在の天気予報と同様に予測とデータ同化のシステムとして機能することを示したと考えています。これにより、量子コンピュータを用いた気象予測の可能性を示したと考えています。
【1-2】NQC(2025年度探索型人材育成コース)の参加や活動にて、何か変化はありましたか?
参加前は量子コンピュータに関するの知識は少なかったため、量子コンピュータの基礎から学びたいと考えていました。そのため、体験型の講義に参加し、量子コンピュータの第一線の専門家からの説明を受けることができました。また、量子コンピュータだけではなく、量子インターネットなど量子技術の講義も受けることができました。これにより、量子技術が実社会への応用に向けて開発されていく領域であると感じることができました。報告会などで、私とは異なる量子技術の応用先を模索している人や量子技術自体の研究を伺くことができました。それらお話はとても興味深かったです。また、研究支援金により専門書の購入負担が減り、学習を進めていくことができました。そして、理化学研究所の訪問はとても思い出に残っています。量子技術を研究している研究者から直接お話を伺うことができたり、量子コンピュータの実機を拝見したりすることができました。この経験から,量子技術が決して絵空事ではないと肌で感じ、研究に向けたモチベーションが大きく向上しました。
【1-3】NQCでの経験は、今後の研究・開発・キャリア形成にどのような影響を与えると思いますか?
NQCの探索型プログラムを通じて、量子コンピュータの現状や、今後の応用に向けた課題について、体験を通じた感覚的な理解を深めることができました。この経験を元に、今後も量子技術へのキャッチアップを続けていこうと考えています。特に、量子アルゴリズムや量子機械学習の分野について、学習を続けていきたいです。これによって、将来量子コンピュータが実用化されるときに、それらが使えるようになりたいと考えています。そして将来、自身が働く企業や環境において、量子コンピュータの実用化を見据えた実証実験や新規プロジェクトが立ち上がった際には、積極的に参加したいと考えています。NQCで得た知識や、探索型プログラムで研究をした経験を元に、プロジェクトにおいて活躍したいです。
【1-4】これからNQCに応募する人へ、アドバイスやメッセージがあればお聞かせください。
自分の専門分野や関心のある分野に、量子コンピュータを応用できないかというアイデアがある方には、ぜひ探索型への挑戦をおすすめします。量子コンピュータについて、応募時点で知識が少い場合でも、体験型の講義を通じて基礎からしっかり学ぶことができるため、やりたいことを実現できると考えています。特に、量子コンピュータの応用に関するテーマで応募する方が増えることを個人的には期待しています。このプログラムの魅力として、さまざまな人の話を聞くことができることがあると考えています。量子技術に関する研究者であったり、量子技術を用いている企業の方であったり、ほかの探索型の方であったりのお話を聞くことで、量子技術の現状であったり、量子技術の利用のアイデアを知ることができます。少しでもアイデアがあれば、まずは応募して、量子技術に関して学んでみることをお勧めします。
| No | 名前 Name |
研究テーマ Research Topics |
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| 2025-R-201 | 田上 真嗣(Manatsugu Tagami)さん | 偏光量子もつれを用いたアンシラ駆動型ブラインド変分量子計算の実験実証 Experimental demonstration of ancilla-driven blind variational quantum algorithm using polarization qubits |
| 2025-R-202 | 宇都宮 健太(Kenta Utsunomiya)さん |
【1-1】今回、あなたが提案・実施したテーマについて、紹介してください。
私は「偏光量子もつれを用いたアンシラ駆動型ブラインド変分量子計算の実験実証」というテーマで研究を実施しました。量子ビットを実現する物理系はいくつかありますが、その中でも光方式は量子もつれを遠隔地へ伝送できるというメリットがあります。私の研究ではその特性を生かし、遠隔地から量子コンピュータを安全に操作する計算手法の実証を目標としました。ここでいう「安全」とは、量子コンピュータ側からも操作や計算内容が秘匿できることを指します。この技術は、将来企業などが量子コンピュータを提供し、ネットワークを介して誰でも量子計算を実行できるようになった時、利用者の利益を守るために重要となると考えています。NQCに参加してみて、探索型研究に採択された他のメンバーにたくさん刺激をもらいました。私は学部4年のころから研究を始めましたが、他のメンバーの中には学部2年生もいて、その意欲的な姿にモチベーションをもらいました。また、私の研究室は実験系ということもあり、学会以外で理論家の方と関わる機会も少ないので、私が全く知らない分野の内容についてたくさん勉強させていただきました。嬉しいことに、この一年で実証に必要な光学系の完成と、測定に必要な自動化プログラム、解析プログラムの作成を終えることができました。とくに、光学系は、計算を現実時間で終えるための量子もつれの生成レ―トと性能の最適化に大変苦戦しました。共同研究者の宇都宮さんとともに、考えられるノイズ源を列挙し、一つ一つ検証していくことで今の系が完成しました。(田上さん)
私が提案・実施したテーマは、光子の偏光自由度を用いた多体量子もつれ状態の生成・評価を通じて、アンシラ駆動ブラインド量子計算(Ancilla-Driven Blind Quantum Computation, AD-BQC)に基づくパラメータ秘匿型変分量子計算の実証につなげる研究です。クラウド型量子計算の利用が広がる中で、計算内容や最適化パラメータの秘匿性は重要な課題になっています。そこで本テーマでは、ブラインド量子計算の枠組みを活用しつつ、量子化学計算の代表例であるVQEを秘匿的に実行するための実験基盤を、光量子系で構築することに挑戦しました。特にチャレンジだった点は、理論的なブラインド量子計算の枠組みと、実際の光学実験系における多光子もつれ状態生成・測定・評価を結びつけることでした。理論として興味深いだけでなく、将来的な安全なクラウド量子計算の実現に向けた基盤技術として有用性があると考えています。また、量子計算と量子通信・量子セキュリティを横断するテーマである点にも独創性があると感じています。NQCへの参加を通じて大きな刺激になったのは、自分の専門に近い人だけでなく、異なる視点から量子技術を捉えている参加者と議論できたことです。普段は実験や理論の細部に集中しがちですが、「この研究は誰にとって価値があるのか」「どの部分が社会実装のボトルネックになるのか」といった視点を強く意識するようになりました。苦労した点は、実験の実現可能性と研究テーマとしての新規性・意義のバランスを取ることでした。一方で工夫した点として、理論だけで終わらず、実験系で実際に到達可能なステップに分解しながら研究を進めたことが挙げられます。抽象的なアイデアを、測定可能な量や実験手順に落とし込んでいく過程は大変でしたが、自分の中では特にアピールしたい点です。(宇都宮さん)
【1-2】NQC(2025年度探索型人材育成コース)の参加や活動にて、何か変化はありましたか?
毎月活動報告書を出すということで、研究チームの中ではじめに毎月の目標を明確にできたことが研究の進捗を早めるうえでとてもいいことだったと感じています。また、残念ながら私は参加できなかったのですが、国立研究機関などの量子関連研究を実際に見学できる機会が複数用意されていたことがとても印象に残っています。(田上さん)
NQCに参加する前は、自分の研究を主に専門的な新規性や技術的達成の観点から考えることが多かったのですが、参加後はそれに加えて、研究の背景にある社会的課題や、他分野との接点、将来的な応用可能性まで含めて考えるようになりました。研究そのものへのモチベーションも高まり、「自分の研究をどう伝えれば、専門外の人にも意義が伝わるか」を意識するようになったのは大きな変化です。特によかったのは、探索型という枠組みの中で、完成度だけでなく"なぜその問いを立てるのか"という部分まで重視してもらえたことです。研究ではどうしても短期的な成果に目が向きがちですが、NQCでは、自分の関心や問題意識をより根本から見直す機会がありました。(宇都宮さん)
【1-3】NQCでの経験は、今後の研究・開発・キャリア形成にどのような影響を与えると思いますか?
NQCを通して、理論家の探索型メンバーとたくさん知り合うことができました。どれも大変興味深い研究ばかりで、実験家として、まだ未実証のアイデアをこれからも実証していきたいというモチベーションになりました。また、今後のキャリアを考えるうえで、理系分野で自分が向いている作業やパートについて深く理解するきっかけになったと思います。(田上さん)
まず研究面では、量子計算を単なる計算技術としてではなく、通信・セキュリティ・社会実装まで含めた広い文脈で考える視点が強くなりました。今後も、量子計算の性能向上だけでなく、利用形態や安全性まで含めて設計することの重要性を意識して研究を進めたいと思っています。また、研究コミュニティや産業界への還元という意味では、量子技術を専門家だけのものにせず、実際の利用者や社会課題に接続する形で発信していくことが重要だと改めて感じました。自分の研究テーマであるブラインド量子計算や秘匿型VQEも、将来的にはクラウド量子計算の信頼性向上や、機密情報を扱う量子計算利用の基盤技術として貢献できる可能性があります。(宇都宮さん)
【1-4】これからNQCに応募する人へ、アドバイスやメッセージがあればお聞かせください。
量子とひとことにいっても、研究分野は本当に多岐にわたると思います。自分の知見を広げるうえで、なるべく多くの研究者の方々と交流することは非常に有意義ですので、ぜひ興味をもって参加してみてください。(田上さん)
自分の研究やアイデアを専門の枠を超えて考えてみたい人、量子分野の中で新しい視点を得たい人には強くおすすめしたいです。(宇都宮さん)
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研究テーマ Research Topics |
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| 2025-R-301 | 町田 千優(Chihiro Machida)さん | 量子アニーリングを用いた次世代創薬パイプラインの構築 Accelerating Drug Discovery: A Next-Generation Pipeline Driven by Quantum Annealing |
| 2025-R-302 | 鈴岡 拓也(Takuya Suzuoka)さん | |
| 2025-R-303 | 入江 美穂(Miho Irie)さん |
【1-1】今回、あなたが提案・実施したテーマについて、紹介してください。
量子アニーリングを用いた多目的最適化により化合物設計の効率化に取り組んだ。(町田さん)
本研究の目的は quantum annealing (QA) を利用して、抗マラリア薬候補となる化合物の分子設計における活性・毒性など複数評価項目を同時に最適化する新手法を確立することである。本研究計画のパイプラインとその検証方法を提案し、チームメンバーの助けを借りながら研究を推進することができた。(鈴岡さん)
創薬開発はEroom's law*と呼ばれるように、年々難しくなっています。この現状を打破するためには、AIの活用などを活用した効率的な新薬開発方法の構築が求められています。すでに、AIを用いた創薬設計手法も提案されており、新薬開発に利用されていますが、学習に使用するデータセットの準備などから新規性(薬の種類や疾患)が高くデータの少ない薬剤開発には適用が難しいなどの問題を抱えています。我々が提案した手法は機械学習(分子の部分構造間の相互作用の強さを設定)と量子アニーリング(機械学習により設定された相互作用の強さから用いる部分構造の組み合わせを最適化)を組み合わせたFMQAをというブラックボックス最適化**により、少ないデータセットで効率よく目的の性能(薬効・毒性回避など)を有した分子を設計するというものです。この手法を用いることにより、創薬開発の現状に一石を投じることができるのではないかと期待しています。*Eroom's law:年々性能向上が見込まれる半導体分野のMoore's lowを逆読みで命名された新薬の開発が年々困難になっていく様を示す言葉**ブラックボックス最適化:ある入力に対して出力がわかれば、それを元に次の探索点として適切な入力を決定して出力を得て、再び探索点を探すというプロセスを繰り返すことで、最終的に良い結果を見つける手法(入江さん)
【1-2】NQC(2025年度探索型人材育成コース)の参加や活動にて、何か変化はありましたか?
体験型の講義も聴講でき、見識を広めることができた。(町田さん)
研究の発表の対象が普段と異なるため、発表資料やプレゼンの仕方を調整する能力が身についた。(鈴岡さん)
仕事ではなく個人的興味としての活動だったため、NQCの研究に費やせる時間は他の採択者と比べて少なかったと思います。また、そんな中、量子アニーリンク゛を用いた次世代創薬ハ゜イフ゜ラインの構築テーマにおいてFMQAの多目的最適化および高次相互作用、別データセットの準備といった量子技術が関わった部分の全ての実装を担当しました。量子の専門家ではないため、不十分な部分はありますが、目的の特性を満たした分子をコンスタントに設計できるところまでは進めることができたのではないかと考えています。量子素人の自分でも一定の成果を出すことができ、今後も量子を活用した研究を続けることに対して自信を持つことができました。創薬は分子設計以外にも様々な研究分野があります。分子設計以外の創薬開発にも量子技術が応用できるか引き続き検証していきたいと考えています。(入江さん)
【1-3】NQCでの経験は、今後の研究・開発・キャリア形成にどのような影響を与えると思いますか?
他の受講生や卒業生との交流が多く、コミュニティ形成の場として非常に有効であると感じた。(町田さん)
いただいた研究支援費を用いて主体的に研究活動に取り組めたことは貴重な経験となった。私は博士課程修了後民間企業に勤めることを希望している。学部生、社会人とチームを組んだ経験から、アカデミアでなくとも研究をすることができる事例を知ることができた。(鈴岡さん)
ノーベル賞の影響もあり、量子の注目度はあがりましたが、量子技術の応用先となる企業の多くは様子見(情報収集のみ実施)状態だと思います。このような状況では、量子以外を専門にしている学生さんが量子を勉強して「専門領域×量子」を将来的に仕事にしたいと思っても、応用企業先で求められることは中々なく、スキルの無駄が発生してしまう可能性が高いと思います。この状況を変えるためには、今企業で働いている人間が企業風土を変革する必要があると考えています。量子技術が何に使えるのか・何ができないのか(現時点および将来的観点)を明らかにし、本当に有用な技術なのであれば、ユースケースを生み出すことにより、「専門領域×量子」を有した人材を活かせる社会へと変える一助になれれば考えています。また、応用先での活用が進めば、量子技術そのものの開発の促進にもつながるので、応用側から量子技術の発展を支えていきたいと考えています。(入江さん)
【1-4】これからNQCに応募する人へ、アドバイスやメッセージがあればお聞かせください。
発表機会が設けられ、多方面からのフィードバックが受けられるのが魅力だと思います。(町田さん)
主体的に研究に取り組める方におすすめします。運営との距離感がちょうどよく、自由に研究活動に取り組むことができます。(鈴岡さん)
量子技術を普及させるには量子コンピュータ(ハードウェア・ソフトウェア)そのものを作る人と、量子コンピュータを活用して結果を出す人の両方が必要だと思っています。NQCでは前者の人材がどちらかというと多い気がしました。後者の人材であれば、特に量子以外を専門としている社会人の経験や知識が有用になってくると思います。自分が今やっていることが量子コンピュータでも実施できるのではないか、と思ったのであればNQCで試してみるのがいいと思います。実際にやってみて量子コンピュータの優位性が出なかったとしてもそれも新たな知見だと思うので、取り組む価値は十分にあると思います。(入江さん)
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研究テーマ Research Topics |
|---|---|---|
| 2025-R-401 | 西出 恵碩(Keiseki Nishide)さん | 情報幾何に基づく量子ボルツマンマシンの学習アルゴリズムの提案 An Information-Geometric Learning Algorithm for Quantum Boltzmann Machines |
| 2025-R-402 | 三井 悠(Yu Mitsui)さん |
【1-1】今回、あなたが提案・実施したテーマについて、紹介してください。
量子ボルツマンマシン(QBM)を古典計算機で実際に学習できる枠組みの構築に取り組みました。QBMは表現能力の高い機械学習モデルですが、学習に必要な計算量が系のサイズに対して指数的に増大するという問題がありました。先行研究でクラスター近似による計算量削減の理論的枠組みはあったものの、具体的なアルゴリズムはQBMでは未整備でした。今回それを実装し、数値実験での動作確認と収束の証明まで完成させられたことが、我々の成果として挙げられると思います。NQCでは、我々の研究と量子多体系への応用との接点を教えていただいたり、関連する研究者を紹介していただくなど、それまで視野に入っていなかった研究分野の広がりを知ることができました。我々の研究がどこにつながりうるかを考えるきっかけになりました。
【1-2】NQC(2025年度探索型人材育成コース)の参加や活動にて、何か変化はありましたか?
参加前は、目の前の研究テーマを完成させることに集中しており、量子分野全体への貢献という視点はあまり持てていませんでした。NQCを通じて、異なるバックグラウンドを持つ研究者や他の参加者と交流したり、我々の研究と他分野との接点を教えていただくなかで、「この研究が量子分野の中でどんな意味を持つか」を意識するようになりました。
【1-3】NQCでの経験は、今後の研究・開発・キャリア形成にどのような影響を与えると思いますか?
理論分野の研究をしているため、社会実装への道筋はまだ遠く感じており、具体的なイメージは持てていません。ただ、NQCを通じて量子多体系など応用先の研究分野を知ることができ、我々の研究がどこかでつながりうるという感覚は得られました。今後のキャリアについてはまだ模索中ですが、NQCで「理論と応用の橋渡しを意識する」という視点を得たことは、研究者としての方向性を考える上で一つの手がかりになっています。
【1-4】これからNQCに応募する人へ、アドバイスやメッセージがあればお聞かせください。
我々の研究が他の分野とどのようにつながるかを考えるきっかけになりました。研究室の中だけにいると視野が狭くなりがちですが、NQCではそれを広げる機会が得られると思います。応募を考えている方へのアドバイスとしては、研究期間が短いので、最初から現実的な目標を設定することが大切だと思います。あれもこれもと欲張らず、期間内に達成できることを明確にしてから取り組むと充実した活動になると思います。過度に管理されることなく、自分のペースで研究に取り組める環境です。ただその分、どれだけ主体的に動けるかが成果に直結するとも感じました。
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研究テーマ Research Topics |
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| 2025-R-501 | 前蔵 遼(Ryo Maekura)さん | ボソニックQECの実現に向けたGPUシミュレータ開発と制御インフラ整備 Development of GPU Accelerated Simulation Software and Control Infrastructure for Implementation of Bosonic QEC |
【1-1】今回、あなたが提案・実施したテーマについて、紹介してください。
ボソニックモードを用いた量子誤り訂正は理論的にはハードウェア効率が高いと言われている一方で、量子制御が難しいという実験的な問題があります。その問題に対処するための第一歩として、「ボソニックQECに向けたGPUシミュレーションソフトウェアの開発と制御インフラの整備」というテーマで約半年間研究開発を行いました。特に、超伝導cQED系を対象として開発し、デモとしてシミュレーションベースの強化学習を用いたボソニック状態準備の実装部分まで発表することができたので、今後の実機を用いた最適化実験やその先のボソニックQECの実装まで期待感を抱かせることができたと思います。
【1-2】NQC(2025年度探索型人材育成コース)の参加や活動にて、何か変化はありましたか?
参加の前後で変わったことはないのですが、NQCでは自由に研究を進めることができたので、良い意味でプレッシャーを感じることなく活動できたのが良かったです。
【1-3】NQCでの経験は、今後の研究・開発・キャリア形成にどのような影響を与えると思いますか?
今回の成果物はブラッシュアップして、オープンソースにしようと考えているので今後、この分野に興味がある人に向けての良い教材になると考えています。また、NQCは量子コンピュータを開発する側、そのアプリケーションを考える側の人々が混ざったコミュニティなので今後のキャリアを考える上で良い影響があったと思います。
【1-4】これからNQCに応募する人へ、アドバイスやメッセージがあればお聞かせください。
他にも学生が応募できる研究プロジェクト支援(未踏や覚醒プロジェクトなど)はありますが、NQCはハードウェアの開発からアプリケーションの提案まで幅広くテーマを受け付けているので、量子技術と他の分野の組み合わせたテーマを考えることで、自発的に研究を進められる人であれば、割とどんな人に対してもおすすめできるプログラムだと思います。
| No | 名前 Name |
研究テーマ Research Topics |
|---|---|---|
| 2025-R-601 | 鈴木 亜門(Amon Suzuki)さん | 固体系への機械学習第一原理計算モデル Machine Learning-DFT for solid state systems |
【1-1】今回、あなたが提案・実施したテーマについて、紹介してください。
私が提案・実施した研究テーマは、固体系に対する「機械学習第一原理計算モデル」の開発です。具体的には、密度汎関数理論(DFT)の枠組みを維持しながら、機械学習によって運動エネルギー項を近似する M-OFDFT(Machine-Learning Orbital-Free DFT) を実装しました。従来の機械学習ポテンシャルは高精度である一方、内部構造がブラックボックスであり、物理的解釈が困難という課題があります。本研究では、電子密度や運動エネルギーなどの中間物理量を明示的に扱うことで、機械学習の高速性と第一原理計算の説明性の両立を目指しました。特にチャレンジだったのは、結晶系特有の周期構造を扱うアーキテクチャ設計です。グラフニューラルネットワークを用いて並進・回転対称性を保ちつつ、固体系特有のノード構造を設計しました。NQCでは量子科学・計算科学分野の研究者から多くのフィードバックを受け、研究の方向性を深める大きな刺激となりました。
【1-2】NQC(2025年度探索型人材育成コース)の参加や活動にて、何か変化はありましたか?
NQCに参加する前は、自分の研究テーマについて主に専門分野の視点から考えることが多く、研究内容をどのように他分野の人に伝えるかについて深く意識する機会は多くありませんでした。しかし、NQCでは研究発表の機会が多く、物理、情報、材料など異なるバックグラウンドを持つ参加者や研究者の方々に対して説明する必要がありました。そのため、自分の研究を専門用語だけでなく、背景や問題設定から論理的に整理して説明することを強く意識するようになりました。発表を重ねる中で、研究の本質を簡潔に伝える力や、論理的に妥当な説明を構築する力が鍛えられたと感じています。また、他分野の視点から質問や意見をもらうことで、自分の研究の位置づけや意義を改めて考える機会にもなりました。こうした経験を通じて、研究を深めるだけでなく、それを社会や異分野に伝える能力の重要性を実感しました。
【1-3】NQCでの経験は、今後の研究・開発・キャリア形成にどのような影響を与えると思いますか?
NQCでの経験は、今後の研究キャリアに大きな影響を与えると考えています。本研究では、第一原理計算と機械学習を融合することで、高精度かつ高速な材料シミュレーションの可能性を示しました。これは新材料探索や半導体設計などの分野において、研究開発の効率を大きく高める可能性があります。今後は、交換相互作用汎関数など他のDFT項の機械学習近似を進め、より実用的なML-DFTモデルの構築を目指したいと考えています。また、今回の経験を通じて、自分の強みは「物理理論と機械学習を統合する研究」にあると再認識しました。将来的には、量子科学・材料科学・AIの交差領域で研究を進め、学術研究だけでなく産業界にも貢献できる研究者になることを目標としています。
【1-4】これからNQCに応募する人へ、アドバイスやメッセージがあればお聞かせください。
NQCは、自分の興味や好奇心を出発点にして研究を深められる非常に貴重なプログラムだと思います。特に、既存の研究テーマにとらわれず、自分のアイデアを自由に試すことができる点が魅力です。また、量子科学という共通テーマのもとに、物理・情報・材料など多様な分野の学生や研究者が集まるため、普段の研究環境では得られない刺激を受けることができます。専門外の分野の視点からコメントをもらうことで、自分の研究をより広い視野で考えるようになりました。もし量子科学や計算科学に興味があり、自分のアイデアを実際に研究として形にしてみたい人には、ぜひ挑戦してほしいプログラムです。NQCでの経験は、研究者としての視野を大きく広げてくれると思います。
| No | 名前 Name |
研究テーマ Research Topics |
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| 2025-R-701 | 横森 光(Hikaru Yokomori)さん | 量子ネットワーク向け青色光MZIの開発 MZI-Based Photonic Switch for 422nm Quantum Interfaces |
【1-1】今回、あなたが提案・実施したテーマについて、紹介してください。
今回私は、イオントラップ型量子ネットワークにおける青色波長帯(493nm)単一光子用MZIスイッチチップの開発を提案・実施しました。バリウムイオンから放出される493nm光子を波長変換せずそのままルーティングし、ノード間でもつれを共有することを想定した基盤デバイスの設計に取り組みました。通信波長帯(1550nm)ではSiフォトニクスを用いた大規模MZIスイッチが発展していますが、可視光、とりわけ青色波長帯では材料吸収や散乱損失、加工精度の制約から研究例は限られています。しかし将来的にデータセンター型のモジュール型量子コンピュータを構築する場合、イオンから直接出射される光子をそのままルーティングする構成は、波長変換を挟む場合に比べてシステム複雑性を低減できる可能性があります。本提案は、未開拓である可視光フォトニック集積スイッチに正面から取り組んだ点に独創性があります。技術的には、途中でイオン種がストロンチウムからバリウムへ変更となり、波長依存性の強い導波路設計や屈折率分散を再計算する必要が生じました。また、可視光帯ではRayleigh散乱が顕著になるため、SiN/SiO構造の断面最適化やモード閉じ込め設計を再検討しました。さらに私は量子情報・ネットワーク理論を専門とする研究室に所属しており、デバイス開発は専門外でした。そのため外部研究者や企業との議論を重ねながらANSYS Lumericalの習得、サーバー環境整備、シミュレーション自動化を進めました。NQC探索型への参加を通じて、ハードウェア・材料・実装まで含めて量子技術を考える視点を得たことは大きな刺激でした。理論層から物理層へ踏み込み、量子ネットワークのスケーラビリティ向上に向けた基盤構築に挑戦できたことが、本テーマの最大の成果です。
【1-2】NQC(2025年度探索型人材育成コース)の参加や活動にて、何か変化はありましたか?
NQC探索型への参加を通じて、研究の視野と問いの立て方に大きな変化がありました。特に中間発表の際に藤原センター長から「より広い視野を持つべき」と助言をいただいたことは印象的でした。当時私は、ストロンチウムイオンを前提としたデバイス設計を進めていましたが、「なぜそのイオン種なのか」という根本的な問いを十分に掘り下げられていませんでした。議論の中で、発光波長、既存研究基盤、将来的な拡張性、他イオン種との比較といった観点から再検討する必要性を認識しました。それまで私は与えられた条件の中で最適化を行う姿勢が強く、前提条件自体を疑う思考が十分ではなかったと気づきました。この経験を契機に、単なるデバイス設計ではなく、「システム全体として何が最適か」「量子コンピュータの社会実装において何が本質的か」というレイヤーで考えるようになりました。その結果、途中でバリウムイオンへと対象を変更する決断にも主体的に関わることができました。波長変更に伴う設計やシミュレーションの再構築は負担も大きかったものの、研究の前提を再設計する経験は大きな学びとなりました。NQCでの議論は、単なる技術検討ではなく、自身の研究の位置付けや将来像を問い直す機会となり、より俯瞰的に量子技術を捉える姿勢を身につけるきっかけとなりました。
【1-3】NQCでの経験は、今後の研究・開発・キャリア形成にどのような影響を与えると思いますか?
NQCでの経験は、私の研究観を大きく変えました。これまで私は主に量子ネットワークの理論やプロトコル層を扱ってきましたが、探索型活動を通じて、物理層・デバイス層・実装層まで踏み込んで考える重要性を強く認識しました。量子技術の社会実装には、原理検証だけでなく、損失・温度安定性・製造ばらつき・コストといった工学的制約を含めた設計が不可欠です。今回のスイッチチップ開発を通じて、物理からエンジニアリングへの橋渡しこそが、自身の進むべき方向であると明確になりました。今後は、量子ネットワークの上位レイヤー設計と物理実装を接続する研究を進め、理論とハードウェアを分断しないアーキテクチャ設計に貢献したいと考えています。Bell対生成レートや損失がネットワーク性能に与える影響を定量的に示し、デバイス開発へとフィードバックするような循環型研究を構築したいと考えています。また、NQCで得た異分野連携の経験は、研究コミュニティや産業界への還元にもつながると感じています。量子情報理論の研究者がデバイスや実装に踏み込む視点を共有することで、レイヤー間の分断を減らし、より実装志向の研究文化を醸成できると考えています。将来的には、研究だけでなく教育や人材育成の場でも、物理・情報・工学を横断的に理解する人材育成に貢献したいと思っています。探索型研究に没頭する中で改めて気づいた自身の強みは、異なるレイヤーをつなぎ直す視点と、未知の分野にも自ら飛び込む実行力です。量子技術が社会を変える過程において、理論と実装を架橋する存在でありたいと強く感じています。
【1-4】これからNQCに応募する人へ、アドバイスやメッセージがあればお聞かせください。
NQC探索型は、与えられた課題をこなす場ではなく、自ら問いを立て、自ら推進していく場だと感じました。そのため、プロジェクトを自走するモチベーションがある人、正解のない領域で試行錯誤することを楽しめる人、そして未知の分野に踏み込む探索意欲を持つ人に強く勧めたいプログラムです。本プログラムで印象的だったのは、専門の異なる研究者や実務家との率直な議論です。単に成果を評価される場ではなく、「なぜそれをやるのか」「もっと広い視点で考えられないか」と本質的な問いを投げかけてもらえる環境がありました。その問いは時に厳しくもありますが、自分の研究の前提や立ち位置を見直すきっかけになります。探索型という名前の通り、このプログラムでは完成度よりも挑戦の姿勢が重視されます。途中で方向転換をすることも、前提を疑うことも許容されます。その分、自分で考え抜く責任も伴いますが、その経験は確実に研究者としての基盤を強くします。もし「まだ専門が固まっていない」「今の延長線ではない何かに挑戦したい」と感じているのであれば、NQCは大きな転機になる可能性があります。強い好奇心と、自ら動く覚悟がある人にとって、非常に価値のある環境だと思います。